2007
![]() | 私の男 (2007/10/30) 桜庭 一樹 商品詳細を見る |
腐野淳悟は、わたしの養父だ。彼がわたしを引き取って育て始めたのは十五年も前のことで、わたしは小学四年生で、震災でとつぜん家族をなくした。淳悟は遠縁に過ぎなかったけれど、養子縁組をし、養父になってくれた。八年前、淳悟が三十二歳のとき、わたしたちは東京にやってきた。そしてわたしは二十四歳になって、明日、結婚しようとする。ただ確信できていることは、今年四十歳になる養父こそが、私の男だということだけだった。
私の男。離れられない。そばにいたい。もう、離れないといけない。でも、できるだろうか。わたしと養父は、世間においていかれながら、二人きりで並んで歩き続けてきた。わたしが九歳のときから、二十四歳の今日まで。まだ時効になっていないあの八年前の事件からも、一緒に逃げ続けているのだった。
2008年の現在から、2005年、2000年、1996年、1993年と、過去にさかのぼってゆく。そこで徐々に明らかになっていく、花と淳悟の二人だけの秘密。血の繋がった絆。そして罪。
ちょっと凄いよこの作品は。ネタバレを恐れて萎縮してるけど、ほんと凄いの。読む前はドロドロを覚悟していたけど、まったく不愉快を感じなかった。この二人の関係は正しくない。歪んでいる。許せない方もいるだろう。だけど、二人の過去を辿ることで、何となく納得してしまう不思議な作品なのだ。
ざらざらとした世界で、覗いてはいけない過去を読んでいくのだが、すごく吸引力がある文章で、ページを捲る手を止めることが止められない。禁断の恋、禁忌の世界を描いているので、普通なら気持ちの悪さを感じるだろう。しかし、高校生、小学生の花を読む事で、そんなしこりが解けていく。
何故こんなにも依存するようになったのか。何故こんなにも安らぎを覚えるようになったのか。何故こんなにもかけがいのない存在になったのか。何故こんなに…。すべては二人の結びついた過去が紐解かれていくことで明らかになっていく。見えなかったざらりとした物が見えてきたとき、読者はどう感じるのか。何を思うのか。著者が問いかけてくるのだ。
哀しみや切なさ、愛おしさが溢れ、心臓がぎゅっと締め付けられるようで息苦しい。二人は生きるために、ずっと寄り添ってきた。生きるために罪を犯してきた。しかし悪い人とは思えない。むしろ可哀想な人たちだ。やるせなさを感じつつも、何ともいえぬ危うい美が、ここにあった。構成の妙が光る絶品の一冊だった。
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