2008年01月30日 (水) | 編集 |
![]() | 洗面器の音楽 (2007/10) 藤谷 治 商品詳細を見る |
「ふたつのピュアハート」という軽薄で凡庸な作品がベストセラーになった。しかし渾身作であったその後の二作品が不評に終わり、残ったのは小説への未練と多少の預金残高だった。私はフトしたことがきっかけで、商店街の奥にある店舗で古書店をオープンした。そして細々ながらも客商売をしていると、この世界には他人というものがあると、判りきっている常識を発見した。その他者との交流を描いた作品を書いてみたいと思い、編集者にデリヘル嬢を紹介してもらい親しくなった。その麻里を題材にした、娼婦が主人公の小説を書いていたある日、渋谷区内のホテルで身元不明の女性が全裸死体で発見された。それはかつて私が情事を重ねた娼婦なのか。私はその女性が連絡の取れなくなった麻里なのではないか、と恐れていた。
これは困った作品だ。作品について伝えるのが非常に難しい。
まず第一章で主人公の私と麻里が出会い、第二章で身元不明の女性が全裸死体で発見され、第三章で麻里を題材にして書き上げた原稿を主人公(読者)が読み、第四章で麻里が恐怖していたヤマダという男が現れ独白し、そしてすべての謎が明らかにされぬまま物語は終わる。
ヤマダを名乗る男が語った話や、担当編集者の謎の行動やらが謎のままなので、もやっとしたモノが残った。だけどこれは作者の意図したものだし、この主人公ならこの終わり方もありかなと思う。現実と虚構が入り混じったような不思議な世界で、文学というよりも少し幻想的な匂いがした。
本書を読み終わってみても、作品のどこに中心点があるのかよくわからなかった。主人公の私なのか、行方がわからなくなった麻里なのか、主人公が書いた小説なのか、すべてが混濁していて捉えどころがない。とにかく変わった作品だ。唯一わかるのは、主人公のモデルが藤谷治本人だということぐらいか。
藤谷治氏の作品はすべて読んでいる。「アンダンテ・モッツァレラ・チーズ」のポップでラブな作品や、「恋するたなだ君」の不思議世界の恋愛作品や、「いなかのせんきょ」の講談調でストレートな作品や、「誰にも見えない」の乙女心を深く掘り下げた作品と、作風の幅がすごく広い。そして「いつか棺桶はやってくる」「またたび峠」の《つんつるてんの男》で新境地を開いたが、キャラ読みが大好きな読者にとっては、この新境地の世界を読み解くのがかなり難しい。できれば、以前の作品のように、軽く読める作品に戻って貰えるとありがたい。あくまで個人的な要望だけど。
ごちゃごちゃ書いたが、結局は藤谷治氏のファンだ。これからもずっとファンだ。ただ難しい本を読み込む力のないしょぼい読者なのだ。こういうしょぼいヤツでも絶賛できる作品を、次回作では期待したいのである。
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洗面器の音楽
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2008/03/16(Sun) 22:07:17 | 本のある生活
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