2008年02月15日 (金) | 編集 |
![]() | 恋の休日 (講談社文庫) (2002/08) 藤野 千夜 商品詳細を見る |
「恋の休日」「秘密の熱帯魚」の二編を収録。
中年の化学教師の肩をポンと叩いたら、勝手に階段から転落した。単なる不幸なアクシデントで、そんなつもりはなかった。女子高生のフィンこと山口佐和子は、その出来事がきっかけで高校を退学になった。父は体調を崩し、愛人に看病されている。母親は娘かえり。気弱になった父の進めがあって、山梨の別荘にやって来たフィン。恋人樫山とは大喧嘩の末別れたばかりなのに、その軽薄な元カレはフィンの前に現れた。「恋の休日」
ミサキは漫画家でトモナリユキオは編集者だった。トモナリとは十六ヶ月一緒に暮らした。離婚の理由は誰にも言わなかったが、トモナリには豊満な体格の恋人(男)がいたのだ。そのトモナリの使っていた部屋が空っぽのままになっていたので、アサオカ君の引越し荷物を三週間ほど預かることになった。友人のアサオカ君はマゾ、その彼女のオカザキは女好き。ミサキのアシスタントをするハシモトには暴力彼氏がいる。そのオザキがいなくなり、ハシモトとも連絡が取れなくなった。「秘密の熱帯魚」
二作品とも、状況としてはかなり悲惨だ。高校中退になり家族が崩壊寸前の「恋の休日」はまだまし。離婚して心にポカリと穴があいた上に身近な人が消えてしまう「秘密の熱帯魚」は、このあともっと悲惨なことになる。ところが二作品とも、まったく悲惨さがない。主人公たちが、さらっとしていて、とても無邪気に日常を送っている。しかも、さらにこちらを笑わせもして、とても可愛らしく思えてくるのだ。
各々に問題はあるのだが、両者ともそれについてまったく向き合おうとしない。というよりも、わざと目をそらして、見なかったことにしよう、聞かなかったことにしよう、とドアをパタンと閉じてしまうのだ。だけどこれがドライで冷たい感じではなく、やっぱりちょっと気になる、とドアの向こうに聞き耳を立てているのだが、ドアスコープを覗くまではいかない。これがこの作品の乙な味わいどころだ。
この素材を使えば、ドロドロになって疲れた展開になるはず。それがこんなに愛らしい作品になるなんて、藤野千夜は只者ではない。重くなりがちなお話なのに、軽妙な会話でサクサク読ませ、さらに読後には清涼感さえ残ってしまう。余計な感傷をそぎ落としたところに面白さがあり、淡々とした中に想いが隠された、ピュアな一冊でした。
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