2008
![]() | 夜のピクニック (2004/07/31) 恩田 陸 商品詳細を見る |
夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。朝の八時から翌朝の八時まで歩くというこの行事は、夜中に数時間の仮眠を挟んで前半が団体歩行、後半が自由歩行と決められていた。前半は文字通り、クラス毎に歩くのだが、自由歩行は、全校生徒が一斉にスタートし、母校のゴールを目指す。そして、ゴール到着が全校生徒中何番目かという順位がつく。もっとも、順位に命を懸けているのは上位を狙う運動部の生徒だけで、大部分の生徒は歩き通すのが最大の目標であった。
生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。三年間わだかまった想いを清算するために。今まで誰にも話したことのない、とある秘密。折しも、行事の直前にはアメリカへ転校したかつてのクラスメイトから、奇妙な葉書が舞い込んでいた。去来する思い出、予期せぬ闖入者、積み重なる疲労。気ばかり焦り、何もできないままゴールは迫る。
人気作家である恩田陸が苦手だ。これまでに、「六番目の小夜子」「球形の季節」「月の裏側」「上と外」「図書室の海」を読んだ。「上と外」は冒険ものでわくわく読めたが、それ以外の作品はどこが面白いのかさっぱり分からなかった。しかし、「図書室の海」に収録されていた本書の前日譚である「ピクニックの準備」を読んで、その後の展開は気になっていた。偶然図書館の棚で見つけ、世間での評判がいいみたいだしと理由をこねて、今更だが「夜のピクニック」にチャレンジしてみた。これが面白〜いのである。実に困った。恩田陸が苦手な読者としては、褒める言葉を用意していなかった。
ストーリーは、ただ歩きながら友達と他愛もないことを話すだけ。主人公は甲田貴子と西脇融の二人。この二人は実は腹違いのきょうだいで、誰にもそのことを打ち明けないまま、お互いをビンビン意識しあっている。まあ、お互いにどう思っているかは、読めばわかるので省くが、これが読ませてしまうのだ。それと共に、貴子は、前半に梨香、千秋のクラスメイトと歩き、後半は親友の美和子と歩く。融は親友の忍と最後まで歩く。時にはニアミスをする内緒のきょうだい。そこにイレギュラーの内堀亮子や、勘違いしたロックスターの高見光一郎が飛び込んできて、作品を盛り上げる。
ミステリ要素っぽい杏奈のおまじないは、早い段階で想像がついた。しかし、これもベタな感じで中々よろしい。八十キロを歩くなんて無謀なことも、自分なら仮病を装って休んでいただろうけど、成し遂げたことによって一生の思い出になりそう。ただ歩くだけなのに、登場人物が愛おしくなり、風景が目に浮かんできて、彼らの息遣いが伝わってくる。人生の中のほんの一瞬を捉えた良作だと思った。この作品だけは恩田陸のすごさが理解できた。これの続編がでたなら、また恩田陸を読んでもいいかな。
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