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    2008

03.30

「こうふく あかの」西加奈子

こうふく あかのこうふく あかの
(2008/03/27)
西 加奈子

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二〇〇七年七月。俺(靖男)は三十九歳。妻(国子)は三十四歳。夫婦は結婚して十二年になる。大学を卒業してからすぐに勤めた調査会社では、順当に課長のポストをもらい、収入も今のところ安定している。妻は美人であるが、話が面白くなかった。つまらない女であるがゆえに、妻のことを心配したり、疑ったりすることは、一度も無かった。俺たちは平凡という心地よい波の中を静かに進む、小ぶりではあるが絶対に沈まない、安定感ある船に乗っているようなものだった。そして俺たちの平凡に唯一足りないもの、それが子供だった。

ある日、妻に、妊娠したと告げられた。俺は、腰を抜かすほど驚いた。何故、妻の妊娠発言に、それほど驚いたのか。それはこの三年ほど、俺たちはセックスをしていなかったからだ。凡庸ではあるが善良、頭は鈍いが素直、つまらないが従順、そして、色気のないただの美人、貞淑、性について鈍感な妻。今まで信じていた妻の像が、ガラガラと音を立てて崩れてしまった。そんな妻は申し訳ないという顔をしながらも、口から出る言葉は裏腹だった。「私、産みます」。妻は、ただずっと、阿呆の女であった。俺はじっと考えた。俺の未来、会社での俺の未来、家庭での俺の未来、俺としての俺の未来。そして、結論を出した。体面だけを考えた挙句、「産みなさい」と。

一方、二〇三九年。かつて我が国のプロレスはアントニオ猪木をはじめ様々な選手がめざましい活躍を遂げた、世界でも有数のプロレス国だった。それが現在その地位は下降の一途をたどっている。所属レスラーが七人程度の小さな団体に、謎に満ちたマスクマン、アムンゼン・スコットはいた。そしてセコンドには、いつもチャイナ服の小男チャンがいた。彼はどんな小さな試合でも全力でやる。死ぬ気でやる。アムンゼンは向かうところ敵なしであった。

主人公は完璧主義の男で、妻が他の男と同衾したことで、自分の存在を無視されたこと、相手の男が気になるという、二重の屈辱を強いられる。男は言葉には出さないが、誰の子なのだ、という思いが心中を駆け巡っている。だけどプライドの塊である男は、言葉に出せない。すごく身勝手な考え方をする男が、我が面子を守るために、悶え苦しむ姿は滑稽だ。男は働く会社でも笑わせてくれる。才気溢れる課長を演じきっているつもりなのだが、それらがすべて空回りしているのだ。

その問題を起こした妻は、どこかの線が抜けているような不思議ちゃんで、彼女の何を考えているのか分からないふわふわ感も、いい味を出している。この妻の意識が、罪悪感やその類のものから、やがて純粋に腹の中の子供だけに移行していって、目に見えてどんどん生き生きしていく。そんな妻の姿に男は惨めさを味わい、意思を持たなかった妻が、ひとりで歩んで行こうとしているように思えて、男はさらに打ちのめされる。

主人公には同期の兎島という男がいて、名前を呼ぶ前や何かを話す前に、必ず「あ、」をつける。「あ、何時?」「あ、いいよ」「あ、たぶん」というように。こやつが能天気でひょうひょうとした存在感の薄い男だが、妙に不思議な魅力があった。この兎島に連れられて、ある店へ飲みに行くことで、もうひとつのプロレスラーのストーリーと繋がっていく。

この店の常連客に、ジリとキキの八十の婆さんコンビがいるのだが、いつも粋な恋バナを披露してくれる。この恋バナは、西加奈子っぽいユーモアで微笑ましく思えた。そしてカウンター奥にあるテレビでは、猪木の試合が無声で流されている。猪木と言えば「道」。本書のテーマも「道」。この道について語られる終盤は、なにやら文学の匂いがした。文学=わからない、という偏見を個人的に持っているのだが、西作品もしかりだった。でも二つのストーリーが交差するラストは爽快で、そして男が叫ぶ「俺の息子よ!」という言葉が、とても読後感を良くしていた。

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西加奈子
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comments

こちらにも♪
主人公の男の人、最初は嫌なやつって思ってたんですがだんだんあまりの空回りっぷりが笑えてきました。
ラストはなんだか本当よかったなあって思ってしまった。

ちきちき:2008/04/18(金) 21:08 | URL | [編集]

ちきちきさん
出来る人だと思い込んでいる主人公が鼻につく。
でもそれが空回りだとわかった時が、この作品の醍醐味かもね。
最後は幸せな気持ちになれましたねー。

しんちゃん:2008/04/19(土) 13:04 | URL | [編集]

こんばんは。
主人公の男、完全に空回りしてましたね。
奥さんよくやったって思いました。
あの飲み屋の雰囲気、働く二人の立ち振る舞いや老女たちの会話。すごくよかったです。
みどりよりあかが好きです。

なな:2008/06/12(木) 21:18 | URL | [編集]

ななさん
バカに見える女もやはり女。老女になっても女。
女は強くて、男ってバカだねえと思った作品でした。
ななさんはあかですか。自分はみどりでした。

しんちゃん:2008/06/13(金) 10:11 | URL | [編集]

靖男は本当いやな男でしたが、ラストは良かったですよね。
私はこうふくみどりのの方はまだ読んでいないので、そちらも早く読みたいです。

masako:2008/07/02(水) 00:38 | URL | [編集]

masakoさん
靖男を自惚れさせておいて一気に落とす。
こういうブラックな手法は大好きです。
みどりも早く読めるといいですね。

しんちゃん:2008/07/02(水) 10:15 | URL | [編集]

「みどり」からのつながり具合も絶妙でしたね。
「ほほぅ、ここからこうつなげたか!」っていう感じでした。
文句なく面白かったです。

ふらっと:2009/04/03(金) 08:25 | URL | [編集]

ふらっとさん
同じようで違う作品でしたね。
連続出版の出費は痛かったですが満足でした。
必ず買って読む作家なので^^)

しんちゃん:2009/04/03(金) 19:18 | URL | [編集]

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