2008
![]() | 深泥丘奇談 (幽BOOKS) (2008/02/27) 綾辻行人 商品詳細を見る |
京都の奥には、何かが潜んでいる…。深泥丘病院の屋上で見た幻鳥、病院の地下へと続く階段、痛む歯、薄れゆく街の記憶…作家である「私」がみた日常が一瞬にして怪談に変わるとき、世界は裏の顔を表す!デビュー20周年。綾辻行人の新境地!初の連作短編怪談集。奇妙な風味の自伝的幻想と怪奇。◆『ドグラマグラ』好き、『クトゥルー神話』好き、『ミステリーズ』に寄稿した「悪霊憑き」も収録。《出版社より》
「顔」
推理作家である私は強い眩暈に襲われ、深泥丘病院(みどろおか)に検査入院した。?ちちち……″と、どこからか妙な音が聞こえてくる。音は虫のたぐいではなく鳥でもなく、その他の小動物でもなく、これは人の口から発せられるのではないか。そんな気が、強くした。そして検査をしてみると。
「丘の向こう」
医師の言葉に従って散歩の距離を意識的に延ばしてみた。すると深泥丘の向こう側に抜ける遊歩道があり、その坂を下りきった先で線路を見つけるに至った。その日、線路沿いのそこかしこに鉄道マニアの姿があった。そこに、ごごご…という地響きを立て、?物凄いもの″が走ってきた。
「長引く雨」
二週間以上の雨が続くある日、暗い顔をした幼き自分が写った写真を見つけた。四十年ほど前に撮られた写真らしいが、私の記憶にはまったくない。しばらく見ているうちに、遠景に写った橋の下にいくつか、奇妙な?影″が並んでいるのに気づいた。?長引く雨″が続くと?良くない″。最近そういった声ばかり耳にしていた。
「悪霊憑き」
ここしばらく日課にしている散歩で、こともあろうに川に浮かぶ水死体を見つけてしまった。私はその女性を知っていた。彼女は?水の悪霊″に取り憑かれていたのだ。しかも、彼女に憑いたものを落とす、本物の霊能者による悪霊祓いに、私は立ち会っていた。そこで見たもの、結末とは。
「サムザムシ」
ずきずき、ぎりぎりと痛む右の奥歯。そこで病院に新設された歯科診療室を訪れた私は、最後に治療した七年前に、どこの歯科医で治療したかを訪ねられた。家内の郷里である南九州の猫目島だと答えると、今どき珍しいと云うか、貴重と云うか、と意味深な言葉を医師は口にした。私はかつて経験した?あれ″を思い出した。
「開けるな」
妻が買ってきたお土産の中から、なぜか古びた一本の鍵が出てきた。それから毎晩、同じ夢ばかりを見るようになってしまった。その夢とは、子供の頃の自分が主人公で、父方の祖父が住んでいた家にあった、開けるなと激しく叱りつけられた記憶がある、閉ざされた?黒い扉″を、例の鍵で開けてしまうものだった。
「六山の夜」
八月十六日、五山送り火のその日。五山全部が見える病院の屋上が開放されると、医師にお誘いを受けた。それに噂によれば、今年は?六山″の年でもあるという。私は京都の行事の中でも、これだけは愛着があった。そして六山目の送り火がそろそろという時、私は急激な目眩の発作に襲われ、倒れ伏してしまった。その送り火を見た人たちが取った行動とは。
「深泥丘魔術団」
深泥森神社の秋祭りの中日であるその日、病院で恒例の?奇術の夕べ″が催されるという。若い頃に手品に凝ったことがある私は、妻と並んで客席の人となった。第一幕、第二幕と進み、最後のショーで私は舞台上でお手伝いをするはめになってしまう。箱の中に閉じ込められた私。そこで私の身体が、信じられないことになった。
「声」
ぎゅあぁぁぁぁぁ……という声が、窓の外で響いた。三年ほど前に引っ越してきたこの家だが、ここ一ヶ月ばかり前から聞こえはじめた。妻は猿の声だと云うが、どうもしっくりしない。今夜は本当に近くで鳴き声が聞こえる。照明のスイッチを切って、息を呑みながら懐中電灯のライトを、妻の指すほうへ差し向けると、?その何か″がそこにいた。あの顔は――と思うまに、そいつの影がいきなり、左右に倍以上も大きくなった。
綾辻行人の待望の新刊は、トリックやロジックは一切なし。主人公は綾辻行人本人を思わせる本格ミステリ作家である。毎回体調不良を訴える主人公には、これって自虐ネタなんだろう、というユーモアを感じさせて、そこに面白味があった。
「そんなことも知らなかったの?この町に長く住んでいて、〜を知らないなんて」と妻は主人公の知らない町の常識を知っている。体の不調や記憶力の減退に恐れを抱く主人公は、深泥丘病院に毎回通って診察を受けるのだが、石倉医師や咲谷看護師も、それら〜を知っている。知らないのは長年この町に住んでいる主人公だけ。たった一人ぽつんと突き放される主人公を読んでいて、妻も石倉も咲谷も怪しく思えてくる。取り残された主人公が不思議な体験をしていくのだが、その答えを披露せずにうやむやのまま終わってしまう。そこにすっきりを求めるかたは、不満を覚えるかもしれない。だけど、おいらは面白く読めた。
ホラーとしてのひぇーという怖さはなく、幻想的かといえばそれほどでもない。鳥肌ものでもなく、圧倒的な雰囲気があるわけでもない。はっきり言ってしまえば、単発で読めば中途半端だ。だけど、各々の短編を続けて読むと、奇妙な連鎖に気づくことになるだろう。そして深泥丘周辺が、いつしか異界のように思えてくる不思議な作品になっている。論理では説明できない不思議の連続なのだ。
それにこの装丁の凝りようはすごい。表紙しかり、カバーを外してもしかり、さらにページを捲るたびにカラーのイラストが現れる。内容だけでなく、贅沢な仕掛けにも、賞賛を与えたい。それらイラストと、永遠にループするような夢幻世界にただ身を任せてみると、案外気持ちが良くなるかもしれない。
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