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    2008

05.05

「森の匂い」楡井亜木子

森の匂い森の匂い
(1994/09)
楡井 亜木子

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「森の匂い」「訪問者」「牙の恋人」の三編を収録。

「森の匂い」
風間秀明は、百合の父親の学生時代の友人で、五十八歳になる。百合に物心がついた頃にはもう、週に一度は家に遊びに来て、慣れた態度で夕食を一緒に摂ったり風呂に入ったりしていた。三年前に父親が亡くなってから、泊まっていくことは少なくなったが、それでも月に二、三度は現れる。風間には、定職がない。百合の父親と同じ年に大学を卒業して以来ずっと、正道な職にはつかずに暮らしている。いまでも、百合には風間が目上の人間という意識はなく、大学を卒業して就職してからは、風間とは比べられないくらい稼ぐ。風間は森の奥に棲む動物だ、と微妙な関係を思わせる母は言う。しかし、百合にとって風間は、幼馴染みだ。今度の伊豆への旅行も、百合が持ちかけた。

「訪問者」
昼は食事を食べさせ、夜は居酒屋の形態を取る店を経営している樫村が、店を開けようと扉の前に立つと、細かい雨を避けるように、男が頭を抱えるようにしてへたりこんでいた。樫村は男を抱き起こし、店の中へ連れて入った。その若い男は身体の具合が悪いらしく、樫村が家へ帰らずに寝泊りしている奥の部屋へ、とりあえず移動させた。開店の準備を忙しくこなし、別れた妻の友人で、昼間だけ手伝いに来ている今日子がやがて現れ、店を閉めたのは夜の十二時を少し過ぎた頃だった。翌朝、樫村はいつもより早い時間に目を醒ました。結局、あの男のために床で寝たためだった。行く当てのない哲男の身体が回復するまで、樫村は置いてやることにした。

「牙の恋人」
私の名前は、藤枝牙という。牙というのは、母親の学生時代のニックネームだ。彼女は、学生運動でも有名な女闘士で、一番偉い人の側近なので「仁の牙」と、周りの学生から呼ばれていた。ニックネームが牙ならいいが、私にはこの名前しかない。私は森村歯科医院で週三回、大学が終わってから働いている。院長が開いたパーティーで、ぼんやりと周りを眺めていると、私の隣の席に材料屋の和田さんが座った。その和田さんが、私の母親のことを知っていた。彼もかつては過激派だったらしい。ある日、私は和田さんに食事に誘われ、別れ際にキスをされた。時と共に増える痛みを抱えたまま、私は和田さんと過ごすようになった。

巧みな会話文で物語を読ませ、過去の屈託を少しずつ披露して、現在と繋げていく。三編とも静かでひっそりとした物語だ。しかし、見えない底の方で、熱いものがうごめいている。その見え隠れしている何かが明らかになったとき、三編とも止まったままの時が動き出す。背徳、離婚、不倫という日常にありがちな風景も、楡井さんが紡ぎだすと、何やら違うものに感じられた。ブラックボックスを抱えた当事者よりも、周りにいるぶっきらぼうな人たちが素敵で、重さを感じることなくさくさく読ませる。楡井亜木子さんの上品な文章がすーっと身体に浸み込んでくる、そんな一冊だった。

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楡井亜木子
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