2008
![]() | カツラ美容室別室 (2007/12/07) 山崎 ナオコーラ 商品詳細を見る |
主人公は、二十七歳の佐藤淳之介。高円寺にある1DKのアパートへ引っ越してきて、梅田さんに「近くに引っ越してきました」と連絡した。梅田さんは、三十二歳で奥さんがいるのにも関わらずフリーターという自由人。梅田さんとオレは、友達の友達、という間柄で知り合い、なぜか意気投合して、だんだんと間の友だちの介在なしに二人で遊ぶようになった。その梅田さんから、美容院へ誘われた。それが、カツラ美容室別室だった。
梅田さんが紹介してくれた、店長のカツラさんは、カツラを被っていた。黒い七三のカツラだ。「カツラ美容室別室」は、四十七歳の桂孝蔵と、二十七歳の樺山エリコと二十四歳の桃井ゆかりの、三人で切り盛りしているのだった。髪を切ったあとに、店の慰労会を兼ねた花見へ参加することになった。美容院を舞台に、淳之介とエリ、梅田さんたちの交流を描いた作品。
この作家さんの作品を読めば、何かしら感じるものがあるのだが、本書に限っていえば残念ながら何も感じなかった。その要因を考えてみたら、ヒロインが結構しんどい女であったり、カツラさんが捉えどころなかったり、独りよがりな会話を聞かされたりと、登場人物たちに魅力を感じることができず、彼らの想いに共感できなかった。
しかしその一方で、ちょっとした描写に、おお、いいなぁと感じさせるセンスの良さは健在だった。例えば、しんどい女をアパートまで送ったあと、自分のアパートへ帰った場面を引用すると、「部屋へ戻ってから、牛乳を温めた。電子レンジへ入れ、スイッチをオンにしてから、中を覗くと、カップがくるくると回り始めた。このカップが耐熱かどうかオレにはわからなかったので、割れるんじゃないか、とドキドキして、オレンジに光る電子レンジの中をじっと見ていた。一分して音が鳴り、ドアを開けると、ホットミルクの匂い、すごい、出来上がっている。疲れる女といるよりも、アパートで牛乳を温める方がいい」とある。
こういうなに気ない一場面に、やはり作家さんは違うなー、と感心してしまう。自分の日常にもある場面のはずなのに、こういう一文はまず出てこない。耐熱かどうか心配しながらも、停止するまで見て、なおかつ出来上がりに感心した上で、しんどい女と対比する。こういうのを才能だと言うのだろうと、しみじみと思った。
乾ききった人間模様にはノレなかったが、作者のこういった物の捉え方や描写力は好きだ。本書は自分には合わなかったが、今後も注目はしていきたい。たぶん、何かを感じさせてくれるだろうから。
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