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    2008

06.12

「くうねるところすむところ」平安寿子

くうねるところすむところくうねるところすむところ
(2005/05/25)
平 安寿子

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この世界を踏みつけて、思いきり叫びたい。バカヤロ―――!!! そう思っただけなのだ。ほんの出来心なんです。すいません。もう、しません。だから。だから、誰か、助けて。三月半ば、宵の口。月もおぼろな夜空の下、地上五メートルの中空にかかっている頼りない足場板にへばりついて、梨央は口の中でそう唱えた。そうです。酔っていたのです。そうでなければ、スカートにストッキングという格好で足場に上がったりしない。酔っぱらって建設現場の足場によじ登った挙句、降りられなくなってしまった。三十歳。普通その歳で、足場に上がって泣くか、猫じゃあるまいし。

助けてくれた工事関係者に、黒澤映画の姿三四郎を見た。鼻梁は太く、唇は薄くて大きめ。黒目が大きい一重瞼の目が、心配そうに梨央を見ている。こんな風に見つめられるのは久しぶりだ。鼻の奥がツンと痛んだ。助けてくれた。心配してくれた。ずっと求めていたことを、見も知らぬ男に与えてもらった。その男をなんとか捜し出した梨央は、トビの親方である徹男と再会。訥々とだが自分の仕事の魅力について語る徹男に対して、不倫相手で、上司でもある五郎の皮肉な横顔を見ていたら、梨央の中で何かが音を立てて弾けた。仕事を辞めて、生き方をやり直す。その先には、田所徹男の笑顔がある。あそこに行きたい。だから、行くんだ。

もう、イヤ! そう叫んで、何もかも投げ出したい。こんな風に、ポイッと。鍵山郷子は、重ねた工事台帳の上にボールペンを放り出した。離婚に突っ走ったのは怒りからだが、祥二と別れることが誰にとっても最善の方法だと確信した。従業員十一名を抱える鍵山工務店の社長をいきなり排除したら、一体どういうことになるのか深くは考えなかった。会社は父の夢だったはずだ。その父は人生の終盤をまるごと母に与えようとしている。娘も冷たい。誰も助けてくれない。守ってくれない。孤立無援だ。こうして、正式に社長として出社したのは、三ヶ月前のことだった。

家老である専務取締役の棚尾のじいさまに連れられて挨拶まわりをした。総務主任で影の女帝と呼ばれている日比野時江おばばが帳簿をドサドサ放り出して説明してくれたが、さっぱりわからない。二十歳前の若殿なら、我が手で国を盛り上げようと青雲の志に燃えたりできるだろうが、あいにく四十五まで生きてしまった年増女だ。そのうえ、亭主に裏切られた傷心を抱えているのに、自転車操業は当たり前みたいなしょぼいこと言われて、元気が出るわけがない。鍵山工務店はもう終わったんだ。一人娘のわたしが、幕を引いてやる。

まったくの素人だけど、建設の仕事をしたい前向きな三十女。建設について素人で、後ろ向きな四十五歳女社長。そんな素人の二人が、鍵山工務店を舞台に、建設の世界で奮闘していくお仕事小説。これはすごく面白かった。仕事に喜びや生きがいを見出した転職したての新人と、自分には無理だからと会社を畳んで生活資金に換えようと思う女社長。そんな対照的な想いを持っている二人がからみ、あるいは酔った席で自分の熱意を語り、思わぬところからの参戦もあって、予定通りの結末を迎える。

これを出来すぎと言う方がいるかもしれない。でもあえて言い切りたい。平さん、これ最高よ。大金が動いて一生ものになる家だからこそ、工務店の仕事の大変さも、お客様である施主のわがままぶりも、なによりも、家を建てるということの重みを感じることができた。

テンポ良く読めて、爽快な気持ちになれる。そして、働く女性や、行き詰って少し疲れている女性にお薦めしたい作品だった。文庫化で買わずに借りて読んだけど、この文庫本は買おうかな。いや、買うべきかも。すごく楽しくて素敵な作品だと思った。

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平安寿子
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comments

梨央の前向きさが良かったです。女社長の方はヒヤヒヤしたけれど、終わり良ければすべて良しで、爽やかな読み心地でした♪
「こっちにお入り」を読んでいたのに、タイトルの元ネタ、最後になってようやく分かりました(^_^;)

エビノート:2008/07/17(木) 20:33 | URL | [編集]

エビノートさん
タイトルは落語に関係があったように記憶しています。
なんのことだっけ、と本当は?が浮かびました。
あぶない、あぶない(笑)
読後感がすごく良かった作品でしたね。

しんちゃん:2008/07/18(金) 12:21 | URL | [編集]

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『くうねるところすむところ』 平安寿子  文芸春秋


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