2008
![]() | My name is TAKETOO (2008/04) ヒキタ クニオ 商品詳細を見る |
主人公はフィリップ・K・武任。職業はバレエダンサー。二〇二一年アメリカ、ロサンゼルス区で、日本国籍の父親とアメリカ合衆国で育った白色人種の母を持つ異種交配種として生まれる。手足の長い体躯のバランスと骨格は、母親の持っていた白色人種のDNAを受け継ぎ、柔らかく閉まった筋繊維と肌理の細やかな肌は、父親の持っていた黄色人種の質感を持っている。男の足の指は両足とも四本しかない。バレエを踊るために矯正を施してある。男の第五中足骨粗面があったであろう場所の切断面には、リエ・チタニウムが嵌め込まれていた。競技者は金属の足を使って踊るのだ。そのような過酷なバレエダンスの世界大会で、フィリップ・K・武任は五年にわたってグランプリ勝者を続けている。
とまあ、人物紹介だけで気づくとは思うが、主人公が競技するバレエは普通のバレエではない。競技の美しさや技術を採点するだけでなく、身体に対する金属使用量の割合が減点制の採点になり、また、金属を足に装着することによる鎮静のためのドーピングが認められ、その使用量が減点方式で採点されている。つまり美しさを表現するとともに、その肉体の痛みを耐える精神を競う競技でもあるらしい。
一方で、この近未来二〇六〇年の世界経済を見ると、石油社会の覇者であったアメリカは没落し、水素エネルギーを安定して供給することを可能にしたオーストラリアが世界経済の中心にいる。そのオーストラリアからバレエダンスの世界大会が始まる。40歳を前にした武任の背後にぴたりと張り付く若いライバルの存在。武任は老いを受け入れ、老化と戦おうと決意したとき、突然、身体の変調に襲われる。
誰もが武任の身体を自分たちが創り上げたと自負するチーム・タカトウのスタッフ。トレーナーのテッド、専属外科医のドン、ドーピング担当のブランカ、監督のジョナサン、メカニック担当の高城と室田。彼らは武任とともに一丸となって事態と立ち向かおうとするが、そこには金にものを言わせる権力者によるスタッフの買収があった。闘うバレエダンサーの過酷な運命と究極の美しさを描いた作品だ。
読む前は興味がほとんどなかった。ヒキタクニオの新刊だから読もう、と単純に思っていただけだ。しかし、読んでびっくり、これがすごい大作であった。毎日の身体の管理、ケア、食事制限と、どこまでもストイックにバレエに臨む姿や、躍動する競技場面に、衰えていく肉体、重圧から来る精神の疲れ、追われるものの過酷さが、鮮やかに描かれている。そして、先代チャンピオンから勝ち取った称号とともに、受け継ぐことになった重圧だけではないたくさんの事柄。それらに対する武任の姿が、刀のように鋭くて、ここに研ぎ澄まされた美があるように思った。ハイテク化が進んだ近未来の世界だけど、一番大事な根っこは今と変わりがない。それが何なのかを、ヒキタクニオが語っているように感じた。
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