「夕子ちゃんの近道」長嶋有
2008年06月27日 (金) | 編集 |
夕子ちゃんの近道夕子ちゃんの近道
(2006/04/27)
長嶋 有

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西洋アンティーク店のフラココ屋に集い繋がって深まり、やがて、めいめいが自分の場所に旅立ってゆく。フラココ屋を舞台にした七つの連作短編集。

フラココ屋の二階に転がりこんだ僕は、フラココ屋の店番をするようになった。店長はインターネットオークションの対応が忙しく、閉店時にしか顔を出さない。その店長と長い付き合いがある瑞枝さんは、特になにも買わない常連客だ。その瑞枝さんと僕との交流を描いた「瑞枝さんの原付」。

店長の実家兼フラココ屋本店からの帰りのホームで、夕子ちゃんと一緒になった。夕子ちゃんはフラココ屋のオーナーの孫娘で、大家の八木さん宅はフラココ屋のすぐ裏にあり、姉の朝子さんとそこに三人で住んでいる。夕子ちゃんは定時制高校に通っていて、コスプレが好きだ。その夕子ちゃんに誘われて、はじめて歩く道で帰ることになった「夕子ちゃんの近道」。

夜の三時の電話は瑞枝さんで、スクーターでこけて怪我をしたという。翌日、瑞枝さんの安否を心配しつつ、三年ぶりに日本にやって来たフランソワーズとの待ち合わせ場所へ店長とともに絵を届けに行くと、瑞枝さんが店長の昔の恋人だったとこっそり教えられた。その数日後、フランソワーズは店長の前カノだったと瑞枝さんに聞かされる「幹夫さんの前カノ」。

現役美大生の朝子さんの卒業制作はフラココ屋の裏口ですすめられた。だから用事で裏口を通るたびに、木の箱を作り続ける朝子さんの没頭する姿を見つづけた。その作品がついに完成して、展示されることになった。その展示された作品を見て、巨大な都市を連想し、そのことを伝えると、朝子さんの顔が曇った。何かに見えることは失敗らしい「朝子さんの箱」。

フラココ屋の本店に行くとフランソワーズが待っていた。そのフランソワーズは、亡くなった祖父が集めた家具がたくさんあるので、フランスまできて欲しいという。翌日、フランソワーズが相撲のチケットを持って店にやってきた。そこへ、夕子ちゃんが現れて、おじいちゃんが気絶したと言い出した。きっと、あのことを打ち明けたんだ「フランソワーズのフランス」。

少しの居候のつもりだったのが、フラココ屋の二階に住んでもうすぐ半年になる。手伝いとはいえ小道具屋の仕事を、店長の仕事ぶりを目の当たりにしてきた。しかし、簡単な接客や店舗の掃除しかしていないので、何も身に付いていない。それ以上を望んでいないからだ。そろそろ帰る時期がきたのだろうか「僕の顔」。

フランスへやってきた。店長はのみの市。僕はそれに付き添い。瑞枝さんは友達に会う予定。夕子ちゃんたちは観光。皆、目的はばらばらだ。いつもなにかが自分たちをゆるく束ねている。日本ではフラココ屋が。フランスではフランソワーズの部屋が「パリの会員」。

全体的にまったりしている。主人公の僕でさえ謎のままだ。名前も、年齢も、家族も、フラココ屋で居候するに至った経緯も明らかにされない。瑞枝さん曰く、背景みたいに透明な人。そういった空気のような主人公の目線で、フラココ屋に集う人々を見続ける。そして、時間の流れと共に、人々のことがわかり、くっ付きすぎず、離れすぎず、という微妙な距離感を持ったまま、お互いに影響を与え合って、行くべき場所へ巣立っていく。

世間からはみ出した人々が集うフラココ屋。こういったコミュティがあると楽だろう。こんな休憩ならしてみたい。そう思えた気持ちのいい一冊だった。

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