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    2008

09.26

「指輪をはめたい」伊藤たかみ

指輪をはめたい (文春文庫)指輪をはめたい (文春文庫)
(2006/11)
伊藤 たかみ

商品詳細を見る

今月中に、プロポーズするはずだったな。そんなことを考えた途端、ひどい頭痛に見まわれた。気がついたときには、この殺風景な部屋で寝かされていたのだ。ここ数時間の記憶だけが、どうしても思い出せなくなっていた。ここはスケートリンクの治療室だ。生まれてこのかた、一人でスケートに行った経験など一度もなかった。僕は、今月末で三十歳になるそうだ。免許証でわかったらしい。記憶が抜けるということは、はたから見るよりもずっと恐ろしい。そこでまず、ここ数時間にしたことを一つ一つ思い出そうとした。

この日の昼前、僕は新宿にあるジュエリーショップで0.3カラットの指輪を買った。セオリー通り、給料の三ヶ月分で買った指輪だった。誰かにプロポーズするつもりだったのだ。三十歳になるまでに結婚しようと前から決めていたのだから、驚くこともない。それにはわけがあった。僕は、学生時代から、絵美里という同い年の恋人と同棲していた。甘い生活は、二十七歳までだった。ずっと前から、子供過ぎる僕に愛想をつかしていたらしい。あまりに唐突な宣言だった。捨てられてしまった。唐突に捨てられてしまった。

この事件のあと、絶対に三十歳までに結婚してやろうと胸に誓った。絵美里よりいい女の子を見つけて、復讐してやろうと。その決意の三十歳を数週間後に控えていた。だからこそ大枚をはたいて指輪も買った。残念ながら結婚まではこぎつけられなかったにせよ、プロポーズだけはしておきたい。だが、ここにきて、新たな問題が起こってしまった。スケートで転び、この数時間の記憶が飛んでしまった。そして一緒に、指輪をいったい誰にあげるつもりだったのか忘れてしまったようなのだ。しかもまずいことに、僕は密かに、三人の女の子と付き合っていた。そのことははっきりと覚えている。

奇妙な小説だ。主人公は三マタをしており、誰にプロポーズをしようとしていたのか、誰の指に「指輪をはめたい」のか、という女性読者から反感を買うような答えを求めて動き出す。期限はもうすぐに迫った自分の三十歳の誕生日まで。そこで三人の女性と会わって、相手が誰なのか確かめなくてはならない。そこでひとり目の女の子と会ってはエッチをし、その女の子の匂いを消すために、自宅に戻ってシャワーを浴びて、女の痕跡を消すと、またあわただしく次の女の子の元へ向かっていく。なんて元気な男なんだろう。

その三人の女性。智恵はひたすらゲームをコレクションするためだけに生きている。仕事も結婚も、そのためだけにある。過去も未来もなくて、今に生きている。悩みなんて、ゲームをやればすべて解決できると思っているようなゲームおたくの女だ。めぐみは過去に生きている。彼女にとって一番大切なのは、思い出そのものだ。二人でどこに行って、何をどれだけしたという記憶をどんどん貯蔵している。似た境遇だけど、救いようがないぐらいに、見るものや聞こえるの、感じるものが違う。そして和歌子は、未来に生きている。いつも、理想の自分になることばかりを考えている。沢山の習い事をして、未来にばかり目を向けている。まだ、どこにも行きついていないけれど、歩き移動し続けている。

問題は、主人公の男がそのどれも大切にしていないということなのだ。過去でも現在でも未来でもなく、文字通り、止まった時間の中にいる。大人になっても、まだ心がついていかない。大人になれなかったから、結局、絵美里に出て行かれた。愛想をつかされて、傷ついた。そこで時が停止したままなのだ。読み進めていくうちに、ふと気づくと、プロポーズをするつもりだった相手を探していたはずなのに、そんなことはどうでもいいことになっている。自分にとっての結婚相手という他者と向き合うことで、自分自身と向き合っていたことに気づくのだ。男とは、いつまで経っても子供が抜けないところが確かにある。男にとって、痛いところを突いた作品だと思った。

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伊藤たかみ
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【本】伊藤たかみ『指輪をはめたい』-迷走する男に共感す


若い頃、先輩から「結婚は勢いが大事」と言われたのを今でも憶えている。 僕が結婚したのは18年前。 付き合い始めて2ヶ月だから、大いに勢いに助けられたということになるだろう

2013/07/28(日) 11:20 | 名古屋単身赴任とうさん 暇つぶし雑記

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