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    2008

10.03

「センセイの鞄」川上弘美

センセイの鞄 (文春文庫)センセイの鞄 (文春文庫)
(2004/09/03)
川上 弘美

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正式には松本春綱先生であるが、センセイ、とわたしは呼ぶ。高校で国語を教わった。担任ではなかったし、国語の授業を特に熱心に聞いたこともなかったから、センセイのことはさほど印象には残っていなかった。卒業してからはずいぶん長く会わなかった。数年前に駅前の一杯飲み屋で隣あわせて以来、ちょくちょく往来するようになった。

センセイの方から、大町ツキコさんですねと口を開いた。高校時代の先生だったことは思い出したが、名前が出てこなかった。よくも一生徒の名なぞ覚えているものだとはんぶん感心、はんぶん困惑しながら、ビールを干した。名前がわからないのをごまかすためにセンセイと呼びかけたのだ。以来センセイはセンセイになった。

埒もないことを言い合い、薄暗い飲み屋でちびちびと酒など飲みながら隣合い、八の市やキノコ狩、花見やパチンコ、そして二人で島へ旅行に出かけた。肴の好みだけでない、人との間のとりかたも、似ているのにちがいない。歳は三十と少し離れているが、同じ歳の友人よりもいっそのこと近く感じるのである。せつない想いをたがいに抱えつつ流れていく、センセイとツキコの、ゆったりとした日々。

読んでいる途中で、やっと気づいた。これって恋愛小説だったのかと。お互いに大人の二人が飲み屋で再会し、手酌して酒を飲み、肴をつまんで、時々ぽつぽつと会話を交わす。このドライな関係が、最後まで続くものだと思い込んでいた。その後、いろんな場所へ行くうち、あるいは再会した同級生に誘われたことで、ツキコはセンセイを想っていることに気づく。色々と思い悩んだり、突然想いを打ち明けてみたり、距離を置いてみたり、その片思いからくる行動が、まるで少女のようでかわいくてかわいくて。

一方のセンセイの方は、ツキコの視点で読み取るしかないのだが、頑なに壁を作って一線を守ろうとしている。このセンセイの心中は、読者が判断するしかないのだけれど、例えば巨人が好き嫌いで大喧嘩した末に口を聞かなくなったりと、ひょうひょうとしたセンセイにも子供っぽい部分があって、手を出したい、いや手を出しちゃいかん、自分の年齢を考えろ、と本当のところは我慢の歯軋りをしているのかもしれない。頑なすぎる態度ゆえに、こんな想像もできてしまうのだ。

大人の激情的な恋愛ものは苦手だ。しかし本書はそういう恋愛ものではない。大人なのにあわあわとした恋心に揺れている。名前を呼ばれるだけで幸せを感じることができて、気持ちを満たすことができるふたりが愛おしくて、ディズニー・デートを楽しんで、携帯電話を持たされて、という困惑ぶりが少し滑稽で、それでいて年齢も時間も次元も超越したような、ふたりでしか作れない、見られない、行くことができない、ところに到達したようで、ラストは切ないのだけれど、喪失感ではなく、不思議な爽快感をもたらしていたように思う。

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○「センセイの鞄」 川上弘美 


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