2008
![]() | 下北沢―さまよう僕たちの街 (ピュアフル文庫 ふ 2-1) (2008/09/10) 藤谷 治 商品詳細を見る |
すでに読んだ本なのに、同じ本だと知らずに買ってしまった。前の作品タイトルは「下北沢」で、今回は「下北沢 さまよう僕たちの街」だ。微妙な改題だけど、せめて改題したと表記して欲しかった。それでもふつうは気づくんでしょうね。悔しいので、もう一回読んでみることにした。でも巻末に収録された西加奈子さんとの対談は文庫版だけのおまけ。うーん、買って正解? 再読したことで見えてきたこともあったし、結果オーライ? というわけで、前回に書いたことと重複するかもしれないが、同じ本について書いてみる。
箱貸しの雑貨屋を始めたのは、ついその年の春のことだった。長いサラリーマン生活の中でようやく貯めた金は、開店資金であっという間に使ってしまい、貯金はおろかその日その日の電車賃も危ういような経営状態が何ヶ月も続いたが、勇はすがすがしい気持ちだった。街全体が路地裏みたいな下北沢の、さらに路地裏ではあるけれど、下北沢に店を出したのだ。なんといっても、人と出会う。これ以上の贅沢というか、幸福は、またとないくらいだ。
元アイドルタレントのみずほ。その彼氏のミチオ。小説家でホステスもしているミナミ・ナミコ。アート作家のトミマツ。和食屋のナオちゃん。三ヶ月をかけてデートの約束を取り付けた常連客の桃子さん。彼らと過ごす平穏な日々。そんなある日、変わり者の詩人・土蔵真蔵とのふとした出会いから、平穏な毎日に被害が出始め…。ありとあらゆる人種が集う下北沢という街、そこで生きている人たちを描いた作品。
まず自由人ばかりが跋扈していて、あたしならなれる、という根拠なき自信のある人が集まり、この街は特別だと熱狂的に愛し、そこにいることで優越感に浸っている。そして、コンプレックスや閉塞感を持っている人が、特別な人の仲間入りをしたような勘違いができる街で、その可能性を秘めた街に、憧れが憧れを呼び、そこに自分の欲しいステイタスを街にくっつけて、自己満足に酔っている、という印象を受けた。見たこと、行ったこと、風聞を聞いたことがまったくないのだけど、なんとなく漠然とそう思った。
そういう特別意識はちょっと好きじゃないんだけど、気持ちはわかる。若い頃なら、誰もが自分は違うという思いはあっただろうし、いまでもひょっとしたらという気持ちがないわけではない。これはブランド志向に近いのかもしれない。そういう独特な雰囲気を持つ街で、勇と桃子さんの恋の駆け引きがあり、はたまた、みずほとミッチャンの恋物語があり、崩れ行くポエム土蔵真蔵との関わりがあって、これが下北沢なんだと主張している。そして、ラストのしんと静まり返った下北沢の夜にぐっときて、静かに夜が明けていく。再読だけど、感動した。
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