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    2008

11.09

「出星前夜」飯嶋和一

出星前夜出星前夜
(2008/08/01)
飯嶋 和一

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寛永十四年。徳川三代将軍家光の治世。九州島原藩領の有家の地は、キリシタン大名有馬晴信の日野江城があった北有馬まで南へ約五キロ、現領主松倉勝家の森岳城下まで北へ約二十二キロの位置にある。鬼塚の庄屋甚右衛門はこの年、齢五十八歳。甚右衛門の家は代々鬼塚土着の豪族であったが、南から勢力を拡大してきた有馬氏と主従関係を結び、以来有馬家重臣として有家の物心にわたる中心となってきた。そしてキリシタン弾圧がすすむ中、有馬直純が日向延岡に移封され、大和五条より松倉重政が入封されたのを機に下野することとなった。この二年、島原領は夏の台風と冬の旱魃による不作に見舞われ、さらに有家の童たちに悪性の疫病が流行し、次々と倒れていた。

この年、外崎恵舟は齢三十三。恵舟の名はすでに熊本、平戸、天草あたりまで知られ、恵舟の治療を受けるためにわざわざ宿をとって長崎に滞在する者もあった。誰もが知っていながらけっして口にはしないが、恵舟こそ、奇跡的な治療で知られたイスパニア人修道士マグダレナから直接南蛮医術の手ほどきを受けた唯一の日本人医家だった。その施療の間を訪れたのは、日野江城時代に父とは懇意の間柄だったかつての鬼塚監物時次、有家村鬼塚の庄屋甚右衛門その人だった。

一人でも救うという思いに駆られ島原にやって来た恵舟だが、かつての故郷は何もかもが変わっていた。尽きようとする薬種を求めるも、舟を出すにはお城からの許可を待つ必要があり、それどころか異常な搾取により往診の手間も薬代も支払えないほどの困窮ぶり。さらに取り調べまで受けて恵舟は追放処分となった。役人はおのれの保身ばかりを考え、民の困窮など考慮する余裕もない。代官所のあきれた実態を見ても、もはや松倉家などには何も期待できないことは明らかだった。外からの強大な力がいる。恵舟は旧知の長崎代官、末次平左衛門に訴える。

松倉家の島原藩領は、幕府が検地によって公認したその表高は四万三千石である。ところが松倉家が領内検地を行って勝手に算出した草高は、表高の二倍にも当たり、それを無理強いし納めさせている。その報告は平左衛門には信じがたいものだった。この二十年、民は苛政にただ耐えていた。恵舟が何を求めて末次屋敷に来たのかよくわかった。島原藩領の状況は限界を超えており、ここまで来れば何が起きてもおかしくはない。だが、何も出来ない。大事が起きなければ、幕府は何もできない。ここへ来て整いつつある幕藩体制そのものがそうさせていた。

若き寿安の怒りは松倉家中にだけ向けられていたのではなかった。松倉家はいうまでもないが、鬼塚監物始めかつての水軍衆も、松倉家と同罪であり、これまで忍従ばかりを唱えてきたことが招いた人災だとしか思えなかった。額に十字のクルスを描き込んだ寿安は、かつて教会堂のあった森に入り、大勢の若衆たちがそれに呼応して家を捨てた。そこに起こった有家の代官屋敷火災。役人にとって家事の不始末を転化するには、教会堂に立て篭もる若衆たちの額に描いた赤いクルスは格好の的。

なんとか鬼塚監物の取り成しで事態は収束するも、そこに飢餓に瀕する民の生活を無視した加重な年貢納入の通告がもたらされる。これにはもはや万策つきるところに至っていた。島原の民衆は救済を求めてキリシタンに立ち帰った。そして最後の矜持を守るために、島原に一斉に反乱の狼煙を上げる。だが、絶望の果てに突入するしかなかった武装蜂起に、いわゆる勝利などあるはずもなかった。ただひたすら教義のために死ぬという破滅への道をたどり始めただけだった。


天草四郎やキリシタンの反乱というイメージが強い島原の乱だが、ここで描かれている姿は宗教戦争ではなく、苛政に虐げられた農民たちの行き場のない怒りの爆発である。これは現在の経済不況や弱者を虐げる政治とも通じることであって、自分も含めた今の日本人はもっと怒るべきではないのか。自分の生活を守るためには、さらに厳しい目を政治に向けるべきだ。なんて偉そうなことを思ってみた。

作品のことに戻るが、綿密な取材に基づいていた緻密な描写が多いのだけど、たびたび同じことが重複したり、ここまで細かい書き込みは余分ではないかという部分があって、それが重厚さを作り出している反面、無闇にページ数を増やしている嫌いが見えた。それに集中して一字一句を読んでいかないと、気づけば何を伝えていたのかが理解出来なくなってしまう。雰囲気読みを極端に遮断する文章であり文体なのだ。読むのなら覚悟して読むべし。そして著者の四年間のエネルギーがそこかしこに詰まっていて、しっかりとした手応えがあり、読んだという充足感と共に、ラストにはとてつもない感動が到来してきた。歴史が好きな方は本書をどうぞ。


飯嶋和一さんのサインです。

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確かに逐一細かい説明が入るなあと思いました。しかし、たまたま町田さんを読んだ後だったんで「あー自分の置かれた状況が分かるってのは、なんて素晴らしい事なんだろう」と逆に作用してくれました(笑)。

たまねぎ:2008/12/19(金) 21:52 | URL | [編集]

たまねぎさん
町蔵のあとならさもありなん。枝葉は多いですけれど、漠然とした流れを知っていますからねぇ。しかし分厚いのを続けてよく読みますね。自分なら一ヶ月に一冊で十分です。

しんちゃん:2008/12/20(土) 21:41 | URL | [編集]

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出星前夜  飯嶋和一


第三段、『出星前夜』です。今回は時間の都合で粗筋は無し。面目ない。簡単には言えない内容なんだけど、つまりは天草四郎で有名な島原の乱を描いた小説です。 私は島原の乱に対してはキリシタン弾圧に端を発した宗教戦争であるというイメージを持っていたのですが、それ...

2008/12/19(金) 21:27 | 今更なんですがの本の話

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JUGEMテーマ:読書 読書期間:2009/1/23~2009/1/30 [小学館HPより] 4年ぶりの新刊は、読み応え十分の大傑作! 飯嶋和一にハズレなし! ――前作『黄金旅風』から4年ぶり、ファン待望の新刊である。舞台は肥前長崎から島原へ。三代将軍・家光の時代、前作の愚昧

2009/02/06(金) 01:51 | hibidoku~日々、読書~

飯嶋和一  出星前夜


今までに何度も書いてきていますが、私は歴史オンチで歴史小説に強い苦手意識を持っています。去年『のぼうの城』と『テンペスト』(これは歴史ファンタジーと言ったほうがいいのかしら?)を読んでみたけれど、世間の評価はかなり高いようなのですが、私にはイマイチで・...

2009/03/20(金) 06:55 | マロンカフェ ~のんびり読書~

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