2008
![]() | アイスクリン強し (2008/10/21) 畠中 恵 商品詳細を見る |
時は明治二十三年。築地の居留地近くに、新しき菓子である西洋菓子を売り始めたお店があった。そのお店、風琴屋の店主兼菓子職人の名は皆川真次郎(ミナ)。元士族の真次郎は居留地の育ちであった。子供の頃に親を亡くし、築地居留地にある宣教師の家に置いて貰い、下働きをして生きてきた。その地で外国人の料理人から、外国の菓子を習う機会に恵まれ、その経験を頼りに新しい味覚の世界を帝都で切り開き、士族の身から華麗なる転身をはかろうと、西洋菓子風琴屋を開店したのだ。しかし資金も馴染み客もまだまだ足りず、今は予約販売をするのみという、いささか心細き状況であった。
巡査の長瀬は、真次郎のことを女の子のように「ミナ」と呼んで殴られない彼の親友で、旗本の跡取りであったのだが、御維新で禄を失い、なけなしの教養をたよりに試験を受け、警官という官吏の身分の端に登用され、糊口を凌いでいる。そんな徳川方の元ご身分の高い方々は、警察で自然と集まり、一つの集まりを作っていた。長瀬たちは皮肉も含め己たちを、若様組などと内々で称している。
また、ヒロインは小泉沙羅という女学生。明治になってからの成金貿易商が父で、その父にくっついて居留地によく来ており、その縁で真次郎たちとは幼なじみ。喋らなければ麗しくも花のごとき女学生だが、真次郎の作る西洋菓子に目がないお菓子好きで、好奇心が旺盛なおきゃんのお嬢さま。
物語は、手紙の差出人を推理し、何を一番に欲しているかを考察し、それを持って参上せよ、という挑戦的な手紙を受け取る序で始まる。次の「チヨコレイト甘し」では、店の将来が掛かったパーティー料理と合わせて、勘違いから追われている小弥太をかくまうことになる。「シユウクリーム危うし」では、貧民窟の親分同士の縄張り争いに上手く乗せられ、「アイスクリン強し」では、新聞社に文句を言いに来たあげく、奇妙なことに首を突っ込むはめになる。「ゼリケーキ儚し」では、沙羅は見合いに連れ出され、長瀬は警視の命で人探しをすることになり、真次郎は蔓延したコレラと向き合うことになる。「ワッフルス熱し」では、若者たちは金欠から、褒賞目当てに、冒頭の序にあった手紙の謎について考える。
新しいものが西洋からどんどん入り、目まぐるしく移り変わる明治という時代。そんな激動の世に流されることもなく、翻弄されることもなく、しかっりと地に足を着けて日々を生きていこうとする若者たち。彼らの今後が気になる新シリーズの始まり始まり。
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