「空飛び猫」アーシュラ・K・ル=グウィン
2008年10月13日 (月) | 編集 |
空飛び猫空飛び猫
(1993/03)
アーシュラ・K. ル・グウィンS.D. シンドラー

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自分の四匹の子猫たちみんなに、どうして翼がはえているのか、お母さんにはさっぱりわけがわからなかった。セルマ、お前の顔は汚いよ。ロジャー、ジェームズをぶつんじゃありません。ハリエット、ごろごろと喉をならすときはね、軽く目をつぶって、前足でこねこねするように揉むのよ。子猫たちはみんな揃って美しく、すくすくと育ていった。

でも口にこそださなかったけれど、お母さんは子猫たちのことが心配でならなかった。というのは近所の環境があまり良くなかったし、食べ物だって手に入れるのがどんどん難しくなっていた。ある日、一匹の大きな犬がちびのハリエットを追いつめて、襲いかかろうとしたとき、ハリエットはふわりと宙に飛び上がり、屋根に降りたった。そのときにお母さんには合点がいった。

お母さんは子猫たちを呼びあつめ、口を開く。ここは子供たちが成長するのにふさわしい場所ではない。お前たちはここから飛んでいくためにその翼を授かったのだ。お前たちにここから出ていってほしいと。子猫たちはみんなしくしく泣いた。でもみんなにはわかっていた。猫の親子にとってはそれが当たり前なのだということが。

セルマとジェームズとロジャーとハリエットは、喉をならしながら大好きなお母さんに別れの挨拶をした。そして一匹また一匹と順番に、子猫たちはその翼を広げ、空に飛び立っていく。路地を越え、屋根を越え、遥か彼方へと。たどり着いたのはある森。自分たちが街の路地裏にくらべたらずっと安全なところに来たのだということは、子猫たちにもわかっていた。でも、世界じゅうどこにいったってやはり危険はあるのだということも、子猫たちにはわかっていた。

この絵本についての感想は邪魔でしょうから、ここでおしまい。
「帰って来た空飛び猫」へと続く。

「超人計画」滝本竜彦
2008年10月12日 (日) | 編集 |
超人計画 (角川文庫)超人計画 (角川文庫)
(2006/06)
滝本 竜彦

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新人作家は悩んでいた。厳しすぎる現実を前に立ちすくみ、ダメ人間ロードを一直線に突っ走る自分はこのままでよいのだろうか?…いや、よくない!!虚無感とルサンチマンに支配された己を変えるには、そうだ!“超人”になるしかないのだ!!「くじけてはダメ、ゼッタイ!」やさしく励ます脳内彼女レイと手を取り進め、超人への道!!『NHKにようこそ!』の滝本竜彦が現実と虚構のはざまに放つ前人未踏の超絶ストーリー。《背表紙より》

長年のひきこもり生活は、確実にひきこもり者の精神を蝕んでいく。肉体と精神が腐れていく毎日は、思いのほか心やすらかで、このクズ人間ロードを、もうずいぶん遠くまで歩いてきてしまった。しかしこのままでは、確実に人間を失格する。超人になるんだ。エロゲーの美少女もいいが、人間女と付き合いたい。見知らぬ彼女からのメールを待ち続ける日々には、別れを告げよう。デジカメ片手に街に出て、広い世界を見て回るのだ。

でも渋谷でナンパなんて無理だから、とりあえず、出会い系に自己紹介プロフィールを打ち込んで、送信ボタンをクリックした。とここで大問題が。エロゲーシナリオ執筆における不摂生がトリガーになり、人相が変わるほど毛が抜けていたのだ。ハゲ問題だ。脳内彼女レイの励ましに、完全にハゲる前に剃ることにした。スキンヘッドに生まれ変わるのだ。勢いこんでNHKに出演してみれば、テンパッて彼女募集を呼びかける始末。そしてさらに続く鬱の数々。

い、痛たたたたた。身を売っているのはわかるけれど、全然ダメすぎて大丈夫じゃない。ただの妄想なら笑っていられるが、この人のは危なすぎる。脳内彼女レイと会話するのは受け入れられるが、渋谷、渋谷と言っているだけで、なぜ家を出ないんだ。それがひきこもりなんだろうか。その辺がよくわからない。本書の中で、二作目から二年間なにもしなかったとあったが、今度はもっと長い間、なにもしていないではないか。三冊目である本書が出版されてから数年が経つ。未だ見ぬ4冊目に期待したい。ただ読んでいるだけなのに、とにかく疲れた。

それと、結婚したのね。

「岬バーガー」本馬英治
2008年10月11日 (土) | 編集 |
岬バーガー岬バーガー
(2008/07/11)
本馬 英治

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海と漁船と小さな山々とトンネルと古い町。岬の真下には、地元でも穴場的なサーフポイントがある。それが高校二年生の涼の生きている世界だ。ケンとは中学時代からの付き合いで、サーフィンも一緒にはじめた。友達の家の庭で野ざらしになっているサーフボードを見つけたのがきっかけだった。友達のお姉さんが使っていたもので、色が全面ピンクでも気にならなかった。あのサーフボードがなかったら、今でも話していなかったかもしれない。

岬下には、三人のサーファーが亡くなる悲劇があったという。ひとりの少女とふたりの少年。三人とも十七歳でとにかく仲がよく、いつも一緒だったという。ところがある凪の日、突然の高波が少女を連れ去ってしまった。なぜかその日に限って少女はひとりで海に入っていたらしい。翌朝になって、変わり果てた姿で少女が発見されると、少年ふたりもあとを追って、次々と岬の崖から身を投げたのだという。以来、黙祷を捧げてから海に入るというのが当たり前の儀式になった。

ほのかに想いを寄せる同じクラスの凛がサーフィンをやりたいと言い出した。彼女もまたサーフィンという魔法にかかった。ある日、学校帰りに三人で岬に行くと、見なれない軽トラックが停まっていた。男はここでハンバーガースタンドをはじめると言い、小屋を建てはじめた。男は南雲哲也と名乗った。やがて小屋は完成した。看板には白地に青い文字で《MISAKI BURGER》と書かれた。

まあまあ面白く読めたけれど、爽快という作品ではなかった。少年ふたりと少女ひとりは、サーフィンを通じてきずなを強めていく。彼らは賑やかに浮かれているではなく、どこかクールで、時折甘酸っぱくて、まるで一昔前の和製青春映画のようだ。夏休みに入ると、三人は岬バーガーで働きはじめる。僕たちの場所で働いて、サーフィンをして、充実した毎日を過ごす。しかし、平穏な日々はそう長くは続かなかった。岬にリゾートホテルが建つ、という決定した事実が突然降りかかってくるのだ。立ち退かせ屋による暗い陰湿な暴力に、岬バーガーが、僕たちの世界が侵されていく。

青春物語であるのとともに、環境破壊もテーマになっているのが本書だ。砂浜に流れ着く人間によるゴミ。それを拾い集めるボランティア。開発による廃棄物のせいで赤黒く濁った潮。すべての生命は海から始まっているはずなのに、自らの手で汚していく人間たち。海を愛する人がいれば、海を壊していく人がいる。そういう本書だからこそ、爽快とはいい切れない複雑な余韻を残すのだ。著者は海が好きなんだろうな。それもきれいな海が。

「偏路」本谷有希子
2008年10月10日 (金) | 編集 |
偏路偏路
(2008/09)
本谷 有希子

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元旦。場所は四国。木多若月は、遍路の通り道に面した従兄妹の家にいた。リビングでは、父の宗生、伯母の和江、従兄のノリユキがこたつを囲んでいる。少し離れたダイニングテーブルで若月が雑煮を食べている。従姉の知未はガムを噛みながら年賀状を書いているらしく、芋版を押している。ハートフルな会話が飛び交う中、若月は沈黙を続けていた。実は所属する劇団が解散することになり、女優になる夢を諦め都落ちしたい、実家に帰りたいと打ち明けるために、おとんが二泊したら遍路に行くというのに付いてきたのだ。

九年前、若月は両親の反対を押し切り東京に出た。さらに出て行く時、仕送りをくれんかったらホステスになるって無理やり強迫して、好き勝手で家族を振り回していた。「都落ちしたい」 その言葉を聞いた宗生は激怒。若月もまた逆ギレ。間に入った和江に背中を押されて、「申し訳ありませんでした。都落ち、させて下さい」と若月がいうと、「じゃあ、わしが、あんたの反対に、東京に行くわ」と宗生。ずっとノートに自分が感じたこと思ったことを全部したためていたので、それを出版してもらいに東京に行くと言い出したのだ。

若月は浅い人生で満足している親戚を見て、田舎でやっていく自信をさらになくし、父の宗生は奇人ぶりを発揮して、ただただ物事を掻き回し続ける。ノリユキは知未の貯金をすべて遣ってしまい、知未は三十超えて働かない兄を責め、和江はおろおろ、遊びにきた和江の従妹の依子は、我が物顔で家中を引っ掻き回す。田舎の親戚宅で繰り広げるドタバタの数々。夢を追うことの痛みと、諦めることの苦み。温かくも不気味な、田舎の人々。そして、父と娘の間にある、一筋縄ではいかない愛情。夢と現実、愛と確執の物語。

戯曲作の第二弾は、父娘、そして親戚。というわけで、巻末には本谷家父娘対談が収録されている。この対談で、実際に父娘間であったエピソードが作品のベースになっていると、明らかにされている。自分のおとんなら嫌だけど、傍から見るぶんなら面白い親父さんだ。それに仲良さそうだけど、向かい合って座るの、なんか気持ち悪い、と避ける本谷さんが、わかる。これって自分だけかと思っていた。正面も気持ち悪いけど、真横も気持ち悪いんだよなあ。

そろそろ作品のことに触れていく。パンチの効きは若干弱いかもしれないが、時折ブーーっと吹き出すほどの笑いがあって、いつもの身勝手さが渦巻いており、善意の人が実は残酷な人だったりと、ブラックぶりは健在だった。それに、ダメな人ほどかわいく思えてしまうのは、自分もダメな人だからでしょうか。初めは戯曲の台本風に馴染めなかったけれど、慣れてくると、これがスピード感を生み、ぽんぽんとリズム良く読めて、あっという間に読み終えてしまった。やっぱり本谷有希子はいい。これからも買って読んで行きたい作家だ。

サイン本
2008年10月10日 (金) | 編集 |
よく聞かれるのは、サイン本を何冊持っているの?という質問。そこで、カテゴリを作ってみた。ただ、コメントをもらってもお返事を返せませんので、そこは了承してください。


あ行の作家

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有川浩さん


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飯嶋和一さん


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五十嵐貴久さん


か行の作家


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角田光代さん


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金城一紀さん


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金城一紀さん


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川上弘美さん


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川上未映子さん


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紅玉いづきさん


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紅玉いづきさん


さ行の作家


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坂木司さん


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坂木司さん


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咲乃月音さん


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桜庭一樹さん


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佐藤多佳子さん


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雫井脩介さん


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小路幸也さん


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末浦広海さん


た行の作家


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津村記久子さん


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豊島ミホさん


な行の作家


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長嶋有さん


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西加奈子さん


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法月綸太郎さん


は行の作家


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畠中恵さん


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百田尚樹さん


ま行の作家


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町田康さん


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町田康さん


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道尾秀介さん


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森絵都さん


や行の作家


薬丸
薬丸岳さん


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薬丸岳さん


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山崎ナオコーラさん


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米澤穂信さん


わ行の作家


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和田竜さん


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和田竜さん


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綿矢りささん


続く?

「食堂かたつむり」小川糸
2008年10月09日 (木) | 編集 |
食堂かたつむり食堂かたつむり
(2008/01)
小川 糸

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料理店でのアルバイトを終えて家に戻ると、部屋の中が空っぽになっていた。同棲していたインド人の恋人と共に何もかもがもぬけの殻だった。祖母の大切な形見であるぬか床だけは無事だった。ガスメーターが入った狭いスペースの中で管理していたからだ。ここには留まれない。家財道具は引っ越したように何ひとつ残っていない。大家さん宅に鍵を返却し、大型バスターミナルへ向かった。精神的ショックからなのか、倫子は声を消失していた。

十五歳で家を出てから、一度もふるさとに帰っていない。以来おかんとは、年賀状でしか交流していない。山に囲まれた人口五千人足らずの村。村の人たちは、影でルリコ御殿と呼んでいる実家に帰ってきた。ルリコはおかんの名前で、広い敷地には、母屋の他、おかんの経営するスナックや物置小屋、畑などが点在している。この土地は、もともとおかんの愛人が所有していたのだ。

家に戻って来ることをしぶしぶだがおかんは承諾してくれた。条件は、エルメスと名付けられた豚の世話係を引き受けること。もちろん、食費、光熱費、家賃などは別途、きちんと払わなくてはならない。そのためにも、働かなくてはいけなかった。考え込むうち、ふと、この家の物置小屋を借りてちいさな食堂をオープンされることを思いついた。ここは食材の宝庫だ。料理なら作れる。その自信はあった。開店資金は、おかんが、消費者金融並みの高い利息を付けて貸してくれることになった。

顔なじみの熊さんをアドバイザーにして、ほぼ熊さんと倫子の二人三脚で完成させた。オープンさせる食堂の名前はかたつむり。倫子はこれからゆっくりと前に進んでいくのだ。頭の中では、食堂かたつむりのイメージがほぼ固まっている。それは、一日一組だけの、ちょっと変わった食堂だ。メニューはない。食堂かたつむりの名前にふさわしく、ゆっくりと時間をかけて味わってもらいたい。だから、時計は置かない。音楽はかけない。そうしてオープンの日を迎えた。

なんか出来すぎをやりすぎた感はあるものの、悪くはなかった。ただ、余分な文章が多いわりに、調理師免許は持っているのかとか、営業許可を取得しているのかなど、あるべき情報がぽこっと抜けていたり、大事なはずのぬか床が活用されぬままだったり、主人公が料理を始める前に料理の神様にお祈りするだとか、大げさな部分がある反面、人物の感情がわかりづらいのが気になった。そういった書き慣れていない、ぎこちなさみたいなものが見えてしまったのは残念だ。

それに、ここまでレシピが詳しく書かれているのは珍しいものの、最近料理を売りにした本も増えて、そこも目新しさを感じなかった。だからなのか、売れて大絶賛の一方で不評の意見もあって、そういう自分が気になった部分、あるいはエルメスを含めた部分が賛否両論を別けたのかなあと思った。ほのぼのとして、食堂のコンセプトであるスローを楽しめたけれど、もう一度読みたいとは思えなかった。でも食堂かたつむりが近くにあったら行くけどね。

「下北沢 さまよう僕たちの街」藤谷治
2008年10月08日 (水) | 編集 |
下北沢―さまよう僕たちの街 (ピュアフル文庫 ふ 2-1)下北沢―さまよう僕たちの街 (ピュアフル文庫 ふ 2-1)
(2008/09/10)
藤谷 治

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すでに読んだ本なのに、同じ本だと知らずに買ってしまった。前の作品タイトルは「下北沢」で、今回は「下北沢 さまよう僕たちの街」だ。微妙な改題だけど、せめて改題したと表記して欲しかった。それでもふつうは気づくんでしょうね。悔しいので、もう一回読んでみることにした。でも巻末に収録された西加奈子さんとの対談は文庫版だけのおまけ。うーん、買って正解? 再読したことで見えてきたこともあったし、結果オーライ? というわけで、前回に書いたことと重複するかもしれないが、同じ本について書いてみる。

箱貸しの雑貨屋を始めたのは、ついその年の春のことだった。長いサラリーマン生活の中でようやく貯めた金は、開店資金であっという間に使ってしまい、貯金はおろかその日その日の電車賃も危ういような経営状態が何ヶ月も続いたが、勇はすがすがしい気持ちだった。街全体が路地裏みたいな下北沢の、さらに路地裏ではあるけれど、下北沢に店を出したのだ。なんといっても、人と出会う。これ以上の贅沢というか、幸福は、またとないくらいだ。

元アイドルタレントのみずほ。その彼氏のミチオ。小説家でホステスもしているミナミ・ナミコ。アート作家のトミマツ。和食屋のナオちゃん。三ヶ月をかけてデートの約束を取り付けた常連客の桃子さん。彼らと過ごす平穏な日々。そんなある日、変わり者の詩人・土蔵真蔵とのふとした出会いから、平穏な毎日に被害が出始め…。ありとあらゆる人種が集う下北沢という街、そこで生きている人たちを描いた作品。

まず自由人ばかりが跋扈していて、あたしならなれる、という根拠なき自信のある人が集まり、この街は特別だと熱狂的に愛し、そこにいることで優越感に浸っている。そして、コンプレックスや閉塞感を持っている人が、特別な人の仲間入りをしたような勘違いができる街で、その可能性を秘めた街に、憧れが憧れを呼び、そこに自分の欲しいステイタスを街にくっつけて、自己満足に酔っている、という印象を受けた。見たこと、行ったこと、風聞を聞いたことがまったくないのだけど、なんとなく漠然とそう思った。

そういう特別意識はちょっと好きじゃないんだけど、気持ちはわかる。若い頃なら、誰もが自分は違うという思いはあっただろうし、いまでもひょっとしたらという気持ちがないわけではない。これはブランド志向に近いのかもしれない。そういう独特な雰囲気を持つ街で、勇と桃子さんの恋の駆け引きがあり、はたまた、みずほとミッチャンの恋物語があり、崩れ行くポエム土蔵真蔵との関わりがあって、これが下北沢なんだと主張している。そして、ラストのしんと静まり返った下北沢の夜にぐっときて、静かに夜が明けていく。再読だけど、感動した。

「100KBを追いかけろ」黒史郎
2008年10月08日 (水) | 編集 |
100KB[キロババア]を追いかけろ100KB[キロババア]を追いかけろ
(2008/07/11)
黒 史郎

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3人はただ見つめていた。灰色の空。灰色の川。灰色の街並み。工業地帯の凸凹な影。煙突が落とす細長い影。コンテナ。クレーン。大型トラック。誰かが創ったこの街を、100キロババアが走り回る。3人はただ、見つめるしかなかった。―灰色の街、鶴見に起こる連続怪事件。ジュン、カオル、トシオが追う不気味な影、都市伝説100キロババアの正体とは?ホラー界の新星が送る青春エンタテインメント《出版社より》

〈100キロババア〉深夜、道路を車で走っていると、後方から老婆が走って追いかけてくる。その走りは異常なほど速く、100キロの速度を出しても追いついてくるという。これに追い抜かれると車は事故を起こし運が悪ければ死ぬこともあるという。また追い抜き様に振り向き、笑うともいう。似たものに「ターボばあちゃん」「ジャンピングばばあ」などがあり、いずれも「走るお婆さん」という系統に分類される都市伝説である。

親父の修理工場で働く、オカルトおたくでチャットにはまっているジュン。彼の元へ五年ぶりにカオルが訪ねてきた。彼女は高校二年生の時、両親と愛犬を何者かに惨殺され、福島の祖母の家に引き取られていた。五年たった現在も捜査に進展はない。その彼女は一年前にこの街に戻って舞台女優になっており、次の公演で100キロババアを演じるので、100キロババアについて教えて欲しいと尋ねるのだ。

その少し前、車の衝突事故現場を通りかかったジュンは、ドアウインドウに書かれた命という血文字を目撃し、写メールを取っていた。その夜、チャットの話題にその事故があがった。交通規則を守らない車が狩られ、制裁のしるしに命の言葉が刻印される。100キロババアの制裁だというのだ。その一方で、車を運転していたのは仲間のトシオの叔父だと知った。車に同乗していた叔母は、猛スピードで追い越していくお婆さんを見たという。ジュン、カオル、トシオは、通称100キロババアを探すことにした。

ほんの少しだけど気になる部分があった。三人の主人公が無味無臭でまったく魅力を感じなかったこと。コーラが好きというエピソードがなく、何故かコーラばかりが登場したのかが謎なこと。ホラーが混じるのは反則かもしれないと思ったけれど、この著者はホラー作家だということ。これらはけなすほどの粗でもない。だけど、読んだ感想がそれぐらいしか思い浮かばないから困惑している。それ以外はほんとふつうだった。取り立てて面白かった部分もなかった。待っても言葉が降りてこないので、今日はここまで。

これって文句を書くよりタチが悪いかも(汗) すまん。

「赤×ピンク」桜庭一樹
2008年10月07日 (火) | 編集 |
赤×ピンク―Sakuraba Kazuki Collection (角川文庫 さ 48-1)赤×ピンク―Sakuraba Kazuki Collection (角川文庫 さ 48-1)
(2008/02)
桜庭 一樹

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ここで行われているのは一つのイベント。「ガールズブラッド」と銘打って毎晩開催される、地下キャットファイトクラブの悪趣味な物語だ。女の子たちは檻の中の囚人。女の子たちが心からも体からも流す、新鮮で、でもどこか嘘くさい血を観にお客が集まってくる。非合法かもしれない怪しげなショーを観るためにだ。六本木の裏通りを、道にさまようこと数分。統廃合によってずいぶん前に廃校になった小学校の校舎前。薄く汚れた正門は、夜になると密かに開けられる。会員制「ガールズブラッド」の客たちが、今夜も闇に紛れてひっそりとやってくるのだ。

暗い校舎の前を通り過ぎ、中庭に出ると、たくさんのベンチと、キャンプファイヤーのように明々と揺れる松明の炎。そして真ん中には真っ黒な八角形の檻が設置されている。ふいに大音量のレニー・クラヴィッツが流れ出す。檻の中には、派手な衣装を着せられ、手錠をかけられて鎖につながれた女の子がいる。軍服姿のウェイターが、監視をするように、そこかしこに立っている。白いライトがグルグルと回りだす。同時に、花火が景気よく打ち上げられる。オープニングパフォーマンスが終わり、音楽とライトが消えると、第一試合が始まる。

本当は二十一歳だけど、まだ十四歳という設定で出演している、精神的に不安定なまゆ。SMクラブでなんちゃって女王様をし、真面目で人の望むことばっかりに応えるミーコ。インターハイ四位の空手の達人で、女にモテる女嫌いの皐月。この三人が物語の主人公だ。彼女達は、何かを求めるようにして、ここに辿り着いた。三人とも何か抜け落ちたものを心に抱え、毎日のガールファイトに一瞬の安らぎを見出している。不器用で、喪失感に負けそうで、だけど必死に生きている少女達の物語だ。

面白く読めたし、好きだといえるけれど、基本的に少女たちが大人になっていくというのを描いているので、どうしても共感といったものが湧いてこない。女子ならわかるーとなるんだろうが、男子的にはわからない部分があって、入り込めない部分がある。ただ、くそエロ高校生の武史の好奇心ぶりはわかる。だけど、高校生としてはちょっと知識がなさすぎる。中学生という設定ならすとんと落ち着くんだけど。

今回、角川文庫から出版されたので買った。元のファミ通文庫なら読む機会は持たなかっただろう。あの少女マンガ風の表紙は、年齢的にいってさすがに手が出せない。ぐっとくるという作品ではなかったけれど、女子同士の会話が楽しくて、怪しいキャラにも魅力があって、居場所がないというのも現代的で、あまりラノベっていないのも個人的には好きだった。気軽に読めて、すっきりする作品だと思った。

「婚礼、葬礼、その他」津村記久子
2008年10月07日 (火) | 編集 |
婚礼、葬礼、その他婚礼、葬礼、その他
(2008/07)
津村 記久子

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表題作と「冷たい十字路」の二編を収録。

「婚礼、葬礼、その他」
大学のハイキングサークルの同級生である友美から、結婚をするのだが、二次会の幹事とスピーチを引き受けて欲しい、という手紙が届いていたのは、会社の帰りに旅行代理店に寄った夜のことだった。式の日は、ヨシノが先ほど予約してきた旅行の日程の最後の日でもあった。ヨシノも知っている内田君と結婚するのだそうだ。友美と内田君の結婚式はよほど参加したい行事だし、と申し込んだその日に代理店に断りを入れた。

式の日の明け方に見慣れない番号の着歴があることを発見した。電車を降りたときにもヨシノの携帯を鳴らしたが、相手にしなかった。知らない番号は相手にしないのが信条だった。屋久島で聞くはずだった雨の音を頭に思い浮かべながら放心しているうちに、結婚式は終わってしまった。披露宴の会場へ移動する途中、携帯の電源を入れると、その瞬間に着信音が鳴り響いた。見覚えのある着信番号に、ヨシノはいいかげん腹が立って、なんの業者か確かめてやろうと通話ボタンを押した。職場の常務だった。上司の父親が亡くなり、今晩お通夜だという。ヨシノの慌ただしい一日を描いた作品。

友達の結婚式と上司の父親の葬儀なら、結婚式を優先してもいいような気がしたのだけど。しかもすでに出席していることだし、スピーチも二次会の幹事も引き受けているわけだし。だけど、ヨシノは式を途中で抜けてお通夜へ向かう。そこが少し引っかかったけれど、そのお通夜がまあ、酷いお通夜で、披露宴での料理を期待して、今日は何も口にしていないので腹はぐうぐうなるわ、故人の愛人同士の喧嘩に巻き込まれるわ、死んだジジイは孫に嫌われ、長女は涙を流す自信がない。しかも結婚式場からかかってきた電話はピンチの電話。人の不幸ってなんて楽しいんだろう。そういう黒い甘い蜜が楽しめた作品だった。

「冷たい十字路」
すっとばしている自転車がつぎつぎとやってくる。地下鉄の駅が面している交差点は、二つの高校と一つの小学校の通学路が交わっている。おまけに角には二十四時間スーパーがあり、混雑に拍車をかけている。その向かいの古びた建物の産婦人科は、スーパーと対照的に静まり返っているが、自転車通学者に玄関先の植木鉢などを引っ掛けられてときどき悲惨なことになっている。

両校の生徒は、お世辞にも道を譲り合ってうまくやっているとはいえない。高校生たちはスピードを落とそうとしないし、横に広がって走るのもやめようとしない。そういう連中が、前からも後からもやってくる。小学生は、そんな物騒な歩道を通って毎朝通学している。ガシャン。金属がぶつかる鋭い音があがった。高校生たちが自転車と絡み合うようにして地面に落ちていた。遅刻するわけにはいかない人々が、ほとんど一瞥すらせずにその横を通り過ぎていく。

忙しい人々。無関心な人々。マナーの悪い自転車運転。道を自分たちだけのものだと勘違いしている人。これがリアルすぎて怖い。付け加えると、メールをしながらふらふらしている若者や、すれ違うたびにきゃっと自転車を降りるおばちゃんや、日傘をさして道の真ん中を走る女の人。歩道に乗り上げて駐車している車。むかつく奴らを挙げ出したらキリがない。そうして起こるべくして起こった衝突事故。この事故を、周辺にいる人たちの多視点で見ることで、事故の真相が見え隠れしてくる。これってホラーより怖いかも。だけど、上手いなあ。