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    2011

05.03

「メサイア 警備局特別公安五係」高殿円

メサイア 警備局特別公安五係メサイア 警備局特別公安五係
(2010/12/25)
高殿 円

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海棠鋭利、もうすぐ十七歳。ずいぶんと小柄な体のせいで、年齢よりかなり若く見えることがある。無造作に伸ばした前髪の下から見えるのは、いつも人を憎んでいるように見えると評される目だ。光の加減によってやや緑がかって見えるのは、外国の血が混じっているからだろう。父は若い頃、自分のルーツに惹かれて、よく中央アジアあたりを旅したらしい。しかし両親とは、そんな話をする間もなく死別を余儀なくされた。殺されたのだ。

禊ぎ。それは、あくまで殺人と疑われず、標的を指令どおりに自然に事故死させることの公安の用語だ。警察の状況判断も司法解剖をもすり抜ける、事故死をよそおった暗殺を実行すること。それが、警備局の中でも存在が秘匿された部署、警備局特別公安五係、通称サクラ所属である鋭利の、今の仕事だった。マル校。公安の特殊訓練校。鋭利をはじめ、ここの学生は皆、戸籍がない。過去はすべて抹消済みだ。

ひとたびサクラとなれば、たとえ他国に潜入して捕らえられ、あるいは拷問を受けたとしても国家が身柄を確保してくれることはありえない。そのための除籍であり、サクラは殺人という憲法違反、法律違反をおこなう国家の捨て石なのだ。だが、たった一人だけその規則に反して、救出活動を行っても良いとされる人間がいる。それが、メサイア。マル校でコンビを組む相方のことだ。

御津見珀は非常に優秀だが、ひとつ残念な要素がある。組むたびに相方が死ぬのだ。心ない者は、彼のことを、疫病神なんていう。鋭利は不死身だ。強盗に襲われても、ヤクザに撃たれても死ななかった。組んだ相方が必ず不幸な死を遂げる凄腕のサクラと、どんな逆境でも必ず生き残る新米のサクラ。コンビを組んで二年目の海棠鋭利と、その相棒・御津見珀は、マル校でいうところの卒業試験として、総理大臣の息子の護衛を任されるが……。

鋭利に接触してきた北の機関員は、鋭利の家族を皆殺しにした男。それは十三年前に失踪した珀の双子の兄だった。珀の兄エゴール=ギンツブルグが、なにを考えているのか。なぜ珀だけでなく、鋭利にまで接触しようとするのか。そして、世界の改心。十年ぶりに開かれる軍縮サミットで、日本政府はどういう答えを出すのか。架空の世界ながら、どことなく現実の日本とだぶる部分がある。はたして救いはあるのか。そして救いとは。

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その他の作家
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    2011

04.30

「モルフェウスの領域」海堂尊

モルフェウスの領域モルフェウスの領域
(2010/12/16)
海堂 尊

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未来医学探求センター一階。日比野涼子は職場をモルフェウスの不夜城と呼ぶ。どう呼ぼうが自由なのは、その職場には涼子しかいないからだ。半透明なその窓からは、銀の棺の中で眠る少年の横顔がぼんやりと見える。モルフェウス。眠りを司る神。そう名付けられた少年は、人工的に構築された眠りの中をたゆたっている。そして本当は神のはずなのに、彼はシステムの囚人だった。涼子はここでは、たったひとりの女王だ。そして今、その女王の寵愛は、アクリル越しのモルフェウスの横顔に注がれていた。

涼子の仕事。それは、東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する。

「ナイチンゲールの沈黙」「医学のたまご」に関連した作品。また田口先生や、高階病院長、如月翔子と、お馴染みの人物も登場。だが、これが読みにくいったらありゃしない。コールドスリープやそこに纏わる時限立法など、地の文にやたらと説明文が多く、その世界観を理解できぬままラストまで読み進めてしまった。よってミステリとしてもエンタメとしても満足感は不十分にしか得られなかった。最近映像の方では活発だが、肝心の小説の方はパッとしない。そんな印象を持つのは自分だけでしょうか。

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海堂尊
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    2011

04.23

「せきれい荘のタマル」越谷オサム

せきれい荘のタマルせきれい荘のタマル
(2011/01/18)
越谷 オサム

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静岡から東京の大学に進学した石黒寿史は、同郷である法村珠美(のりたま)への恋心から、同じ映画研究部に入部する。しかし寿史は、やたら面倒見のいい、同サークルの先輩・田丸大介(タマル)につきまとわれ、早朝マラソンに付き合わされそうになったり、あきらかに怪しいサークルのBBQに参加させられたりと、振り回されっぱなしの日々。あげく、タマルまでがのりたまに恋心を抱き、猛攻撃を始めて―。

部費の積み立てがほとんどゼロだという人あしらいの上手い部長の三輪からはタマルとのパイプを強化しろと指示され、タマルの猪突猛進型のアプローチに辟易している珠美からは逆キューピットを演じてくれと依頼され、面接に行ったバイト先さえもタマルのせいで採用されず。主人公は石黒寿史。その身近には嵐を呼ぶタマル。タマルは、アパートの部屋が隣室で、しかもサークルの先輩で。さらに恋敵で。

タマルは、無自覚なすっごい困ったちゃん。で、超ウルトラおせっかい男。でも変な行動力はあるくせに、常に全力で無警戒。危なっかしくて見てられない。そしてその破壊力はすさまじい。こういう自由を許されている人ってたまにいる。主人公の寿史にとって、タマルは、鬼門であり、門開きのような存在だ。付き合いが濃厚なら、はきり言えば面倒臭い。でも何故かしら憎めない相手でもある。

なにはともあれ、タマルの行動から目が離せない。何をしでかしてくれて、そこにどんな理由があって、その結果どうなって。読み終えて思うことはひとつ。ああ、タマルだなぁ。タマル、タマルの、キャラの濃い一冊だった。しかし、こういう周囲にあかりを振りまく人って、自分とは対極な人なのですごく羨ましい。タマルになりたいとは思わないが、近づくことなく離れず、そっと観察していたい。続編を希望。

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越谷オサム
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    2011

04.16

「海に沈んだ町」三崎亜記

海に沈んだ町海に沈んだ町
(2011/01)
三崎 亜記、白石 ちえこ 他

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住民に遊園地の記憶を夢見させるかつて遊園地だった街(「遊園地の幽霊」)、海の下に失くしてしまった生まれ故郷に行ってみる(「海に沈んだ町」)、かつては夢の未来生活だった海をいく団地船も荒廃し(「団地船」)、五年前からずっと午前四時八分で時間の止まった町(「四時八分」)、見知らぬ男性の影と自分の影が入れ替わってしまった(「彼の影」)、パートナーを組めば互いの欠点を補い合えるもの(「ペア」)、市の財政難のため、今ある頑丈な橋を経済基盤に合った粗末な木橋に架け替えると、市役所から委託を受けた女性が訪ねてくる(「橋」)、一年前から巣箱が異常発生した町(「巣箱」)、生態保護という概念で監視されているこの国の最後のニュータウン(「ニュータウン」)。

著者らしい独特な世界観ばかりを集めた短編集だ。そこに明確な説明はない。だがその異質で風変わりな設定にも関わらず、その情景がふわりと目に浮かんでくるからこれが不思議だ。しかもそこで生きている人たちに違和感がなく、その人物たちの考えていることすべてが自然体だ。だからすごく同調しやすい。現実ではありえない世界なのにだ。海に沈んだ町ってどうなってるの。迷路化した団地って探検の甲斐があるよね。時間が止まった中で生き続けるってどういうことなの。巧みに読者の興味を煽りつつ、そこに住む人たちを別視点でつかず離れずそっと見ている。その距離感がすばらしい。

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三崎亜記
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    2011

04.01

「メロディ・フェア」宮下奈都

メロディ・フェアメロディ・フェア
(2011/01/14)
宮下 奈都

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東京の大学を卒業した結乃は、田舎に戻ってデパートの化粧品カウンターで働くつもりだった。だが、なんとか引っかかった会社から配属されたのは、町はずれのショッピングモールの中にある化粧品コーナーの一角だった。ここに勤めるまで、同じ仕事なら忙しい人気店よりもヒマなほうが楽だと思い込んでいた。得だと思っていたのだ。楽して同じ給料がもらえるならそのほうがいい。浅はかだった。ヒマってぜんぜん楽なんかじゃない。ヒマが続くと、自分が必要とされていない人間で、いてもいなくてもおなじに思えてくる。

敏腕と聞かされた先輩の馬場さんは不思議なひとだ。一見、ちょっときれいなだけの普通の美容部員に見えるのに、お客さんがとても多い。商品知識が豊富で、メイクが上手。しかし、なんというか、さっぱりしすぎている。不親切なわけではない。それでもお愛想みたいなものが欠けていて、新人の結乃を驚かせる。接客業のイメージが覆されるのだ。首を傾げたくなる。馬場さんを指名するお客さんは絶えないのに、できる限りの愛想を振りまく結乃を指名して買いに来てくれるお客さんは、まだいない。

そんなある日、いつもはすわり込んでしゃべり倒していくお客さん、浜崎さんが真剣な顔で化粧品カウンターを訪れて。家では化粧嫌いの妹とわだかまりが解けずに溝ができ、再会した幼なじみのミズキは、鉄仮面のようなメイクで世界征服を手伝ってほしいといいだして。自分らしさとはなんなのか。頭でっかちになっている主人公や脇役たちが、メイクを通して自分と向き合い、少しずつ成長してゆく女性の物語。

読む人の性別によって壁がありそう。キーワードは、お化粧。完全に女性よりだけど、仕事デビューした時の不安感や、自分への自信のなさ、これでいいのかと自問自答、そこにくる上司の評価など、聞きたい一方で、実際は聞きたくないことも。ああ、あるある、あった、と共感すること多々。最近の著作は、ぶっちゃけ楽しくなかったけれど、これは面白く読めた。つうか、著者は、若い女性を描くべき。

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宮下奈都
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    2011

03.16

「ピースメーカー」小路幸也

ピースメーカー (文芸)ピースメーカー (文芸)
(2011/01/14)
小路 幸也

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僕らが通う、中高一貫教育で知られた伝統ある〈赤星学園中等部・高等部〉は、今は〈赤星中学校〉と〈赤星高校〉という名前になってる。赤い星っていうのは火星のことで、戦いの神様らしい。そのせいじゃないだろうけど、何故か伝統的に文化部と運動部の戦いが続いているんだ。放送部の顧問の先生、コウモリは言う。「放送部が唯一、運動部と文化部を結び付けられる平和の使者〈ピースメーカー〉になれると僕は思ってる。部の活動を把握して、取材から現場の仕切りから放送まで、すべてにおいて彼らを結べるのが、放送部だ」運動部と文化部を繋ぐ架け橋となって平和をもたらすもの。まさしく、ピースメーカー――その実態は、放送部の良平とケンちゃん――知恵と愛嬌の凸凹コンビだ! これぞ、小路幸也印! ハートフルでちょっとノスタルジックな青春エンターテイメント。

アイデアの良平と技術のケンちゃん。彼らが校内で起きる問題を解決するための情報を入手する手段は、放送部の禁断の武器。ハッキリ言ってしまえば、盗聴。また、まったく部活動に参加しないスーパー部長の沢本さん、天使の声を持つ転校生の三浦さんも途中から加わり、情報とアイデアを駆使して、ピースメーカーとして活躍する。主人公たち中学生以外でも、コウモリとかみーちゃんとか、とにかくキャラがいい。さくっと読めて、楽しいYA作品かな。

文化部総合顧問の菅野先生と運動部総合顧問の玉置先生。その二人の間にある確執。通称〈カンタマの戦い〉。それが、カンタマの息子と娘が、恋仲になってしまった。それに、玉置先生の娘が文化部で、菅野先生の息子が元運動部。どうなるんだ? 「一九七四年の〈ロミオとジュリエット〉」

全国大会へ向けて代表を勝ち取るための予選試合はもうすぐに始まる。三年生の折原と河内は、赤星中剣道部始まって以来の期待の二つ星。間違いなく代表になるのはその二人のうちのどちらかといわれている。なのに、八百長をするんじゃないか、という噂が。「一九七四年の〈サウンド・オブ・サイレンス〉」

創立以来続く伝統ある赤星祭。フォークソングのグループ活動は、吹奏楽部と同じ音楽活動だから菅野先生が権限を持つ文化部の範囲だ。ところが、ロックバンドに関しては、あんな騒音はとても文化活動ではない、と言い出した。バンドを組んだ岩島がサッカー部だからだ。「一九七四年の〈スモーク・オン・ザ・ウォーター〉」

職員会議の結果、お昼の校内放送の音楽鑑賞プログラムでロックを流すことは禁じられた。会議で言い出したのはカンタマ。最近の構内の服装や髪型、風紀の乱れは全てロックが原因だって言い出したらしい。ロックだけが流すことを禁止されるなんて、ゼッタイにおかしいと思う。どうやって、ロック禁止をぶっ潰す? 「一九七四年の〈ブート・レグ〉」

放送部に廃部の危機が。顧問のコウモリと良平の姉が付き合っているらしい。みーちゃんは十九歳。コウモリは三十五歳。恋に年の差なんて関係ない。問題は、コウモリが放送部の顧問で、みーちゃんが初代ピースメーカーとして活躍していた時期にはもうそういう関係だったとか、そういう疑惑が掛けられてしまったからだ。一九七四年の〈愛の休日〉」

書道部からエス・オー・エス。一月の二日、書道部は有名な書道家を招いて、体育館の半分が埋まってしまうような大書初めをすることになっていた。ところが、バスケット部もバスケットの実業団から胸を借りる約束をしていた。それぞれに依頼した校長と理事長のお互いの確認ミス。そのとばっちりが生徒に来て。「一九七五年の〈マイ・ファニー・バレンタイン〉」

二月に入ったある日曜日に、電話で沢本さんに呼び出された。放送室に来てちょうだい。一人でね。高峰くんは連れてこないでね。沢本さんはそう言っていた。なんの用事かも言わないし、とにかく来てくれればわかるって。そんなこと今まで一度もなかったから、いったい何があったんだろうって思って、良平は学校に向かった。「ボーナストラック」

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小路幸也
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    2011

03.10

「白いしるし」西加奈子

白いしるし白いしるし
(2010/12)
西 加奈子

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夏目が好きそうな絵を描く。友人の瀬田がそんな風に言って、フレイヤーをくれたのが、五月の終わりのことだった。私も絵を描いている。夏目香織、三十二歳。独身で恋人もおらず、新宿三丁目にあるバーでアルバイトをしながら、金にならぬ絵を描いている。まさに細々とした生活というやつである。絵はずっと描いていた。だが、そううまくはいかなかった。個性が強すぎるようで、媒体を選んだ。

ギャラリーは小さな一軒屋だった。そこには、私を祝福するように、真っ白な光があった。白い地に、白い絵の具が、すう、と引かれている。それは、山の稜線だった。私の絵とは、対極にあるような絵。白い富士山。美しい稜線。私はこの絵が、本当に好きだった。今思うと、その興奮は、その絵に出遭えたことと、自分はきっと、彼に恋をするだろう、という、予感からくるものであった。

夏目の人生は、失恋の歴史であった。青い髪の人に始まり、カメラマン、ミュージシャン、劇団員。彼らは皆、容赦なく私の前から姿を消し、そしてすぐさま、新しい恋にいそしんだ。彼らの変わり身の早さに、いつも驚嘆した。そのダメージのたびに、私は体重を失い、動けなくなった。でも、間島昭史を見たとき、からだの中が、内臓の、血液の、もっと奥にある何かが、発熱して、動き出す予感がしていた。

体を重ねた。彼のすることのすべてが、私の琴線に触れた。だが、彼が家に来てから、私は笑うことが出来なくなった。私はずっと、怖がっていた。彼への愛情は増すばかりで、際限はなかったが、その底なしの先が怖かった。彼から生い立ちを聞いたのは、彼が家に来て、何度目かの夜だった。彼が去るとき、私は泣かなかった。彼が去った後も、泣かなかった。彼は、恋人の元へ帰った。

彼のどこが好きなのだ、と聞かれたら、彼が好きなのだ、としか、答えられない。人を好きになるのに理由なんてない。人は恋をしてアホになり、幾度と失恋の傷であかん人になっても、また人は恋をする。アホな人と、あかん人を、繰り返して生きていく。あまりの切迫に気おされ、苦しさに溺れそうでも、大阪弁の文章が刻むリズムは心地よく、いつまでも読んでいたくなる。失恋小説であり、恋愛小説。そんな一冊だった。

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西加奈子
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    2011

03.03

「祝福」長嶋有

祝福祝福
(2010/12/11)
長嶋 有

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なにかドラマがあるわけではない。それぞれの人物にある日常の風景。そんな誰にでもある時間だけが淡々と流れていく。さらっとした内容ではあるものの、浅香唯や小沢健二、カップラーメンや携帯電話など、エッセイ「電化製品列伝」でわかるとおり、著者ならではの小道具の扱い方がおもしろい。だけど記憶に残るかどうかは…。

遠くで丹下、と聞こえる。寝たまま天井の、明るさをみる。遮光カーテン越しでも、外は明るい、晴れていると分かる。そうだ、今日こそこだま亭にいこう。サンマ定食食べたい。ある物臭い女性作家の、いつもと変わらないだろう物臭な一日「丹下」

マラソン大会の最中、根暗で運動音痴な僕に話しかけてきたのは同級生の川田だ。川田は学年でただ一人の不良だった。浅香唯のセシルって歌、知ってるか。川田の誘いで二人は川田の家へと向かう。「マラソンをさぼる」

前を歩いていた恋人がつぶやき、顔をあげると遠くで最初の花火が輝いた。川面に花火が次々とうつる。「こっちこっち!」と呼び止められる。振り向けば河原の斜面に数人が座り込んでいた。知らない男女ばかりで、誘ってくれた友人の顔の広さに感心する。「穴場で」

コンビニでお湯を入れさせてもらったカップラーメンをコンビニの前で食べる。遅れて山根がコンビニから出てくる。山根は機種変更したばかりの携帯電話の着信した時のアンテナを何色に光らせるかで悩んでいる。二人は歩き出し、近くの公園にきた。「山根と六郎」

頼子は銀行強盗に遭遇した。大きな爆発音が響き、顔をあげたら男が天井に銃を向けており、その銃口からは煙が揺れていた。身をすくませ床をみつめつづけると頼子の気持ちは不意に高校時代に戻ってしまった。銀行強盗の最中なのに。「噛みながら」

毎年父とくる山荘に、今年は一人で向かう。バスを降りて二十分かけて山荘まで歩く。いつも山荘に原稿用紙やノートパソコンを持参するが、ほとんど仕事のはかどった例がない。いい天気だ。東京は猛暑だった。へっへっへっと声がもれた。「ジャージの一人」

コマーシャルに小沢健二の曲をつかうのは反則だ。画面をみてしまって、ちっと思う。人気が出るまでは応援に力が入る。売れすぎてしまうとなんだか冷めてしまう。テレビでみたから、久しぶりに小沢健二の曲をかけて家事を始める。「ファットスプレッド」

久しぶり。どうせならさあ、釣りいかない。西口の改札で待ち合わせをしたが、大勢いる中で釣り人の格好をしているのは原田だけだった。今日、ここにきてよかったのか、悪かったのか、どっちなんだろうかと考え始める。「海の男」

怒鳴ると妹はしょげる。泣き出すことも多いのに、そのくせいつまでも怒られるようなことをする。いつまで待っても母は帰ってこない。人が住まなくなった社宅。出入りするのは、たくさんの猫だけ。そんな時、積雪から屋根に穴があき、照明も消えた。「十時間」

すでに大勢いて、ざわついている。都内で評判のレストランを新郎新婦は借り切った。いわゆる気のおけないパーティー形式だ。なんだか熱っぽい。会場を出てタクシーに乗り込んだところでLから着信。自分はちゃんと好きになることができているのか。「祝福」

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長嶋有
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    2011

02.26

「マリアビートル」伊坂幸太郎

マリアビートルマリアビートル
(2010/09/23)
伊坂 幸太郎

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元殺し屋の「木村」は、中学生の少年に六歳の息子をデパートの屋上から突き落とされ、息子の仇を討つために東京発盛岡行きの新幹線はやてに乗り込む。まさか、こんな状態に置かれるとは予想外だった。その少年の罠に嵌まり、逆に拘束されてしまうのだ。

文学好きの「蜜柑」と機関車トーマスが大好きな「檸檬」の果物コンビは、闇社会の大物に依頼され、その息子を奪還し、彼と身代金を新幹線で運ぶ途中だった。しかし、息子は殺されてしまい、身代金が入ったトランクまでも行方不明に。

業界の中では天道虫と呼ばれ、いつも不幸に満ちている「七尾」は、指示を出すだけで現場には出ない仲介役の真莉亜の指示で、車内通路からあるトランクを盗みだしてくる仕事を遂行中だった。しかし因縁ある同業者と鉢合わせ、降りる駅を乗り過ごすはめに。

梃子の原理と同じで、欲求のボタンをうまく押せば、中学生でも人間は動かせる。人を殺してはどうしていけないのか。木村の息子をデパートの屋上に連れ出したのは、「王子慧」だった。ぜんぜん怖くないよと嘘をつき、突き飛ばしたのは痛快だった。

木村、果物、天道虫、王子。一癖も二癖もある殺し屋たちが、密室と化した新幹線の車内で、丁々発止の渡り合いを演じてゆく。彼らの視点がリレーしていく様は、前作グラスホッパーと同じ形式で、ノンストップで繰り広げられる殺し屋どもの狂想曲から目が離せない。

ここ最近、賛否両輪ある文学寄りの作品続きで、その行く末に、昔からのファンをやきもきさせていた。それが今回は原点回帰。軽妙ながら自分勝手な論理の会話で読ませ、散りばめられた伏線があり、それを見事に回収していく様に、「これこそ伊坂」と、満足した作品だった。

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伊坂幸太郎
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    2011

02.21

「アンダスタンド・メイビー」島本理生

アンダスタンド・メイビー〈上〉アンダスタンド・メイビー〈上〉
(2010/12)
島本 理生

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アンダスタンド・メイビー〈下〉アンダスタンド・メイビー〈下〉
(2010/12)
島本 理生

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主人公の藤枝黒江は、茨木在住の中学三年生。両親は離婚し、二人暮らしの母親は仕事人間で、意思疎通が取れないことにお互いが慣れないことに慣れてしまっている。仲の良い友人とも微妙な距離感を保ったまま学園生活を送っていた。そんなある日、転校生がやって来た。酒井彌生。その後、告白して、付き合うことになるが。

高校生になった黒江は、新しく友人になった百合の友人関係の結果、暴力をなんとも思わない羽場先輩と付き合い始めることに。だが、そこにもうひとり、彼女を事あるごとに誘う人物がいて。黒江はある事件をきっかけにして高校を辞め、憧れのカメラマンに会いに東京へ上京する。そして師匠・浦賀仁の住み込みのアシスタントとして働くことになる。

助手になり二年が経ったある日、中学のクラスメイトが交通事故で亡くなった。葬儀に出席するため故郷に帰った黒江は彌生君と再会。二人は再び付き合い始める。そんな中、頻繁ではないけれど、嫌なことを思い出しかけると、吐きそうになってしまう。黒江は、怖かった。ずっと前から、気付いて、分かって、受け止めてくれて、助けてもらいたかった。

あまり内容を明らかにされていない上下巻なのであらすじを纏めてみた。なんで。なんで。読みすすめる度に、ひっかかってくるのは主人公の無防備な行動。この危うさだけは理解できなかった。たとえ後半部分で秘められた過去が明らかにされてもだ。しかしこの主人公の両親の酷さといったらまあ、呆れて開いた口が塞がらない。ムカツク。許せない。

だが読後感はすごく良かった。過去の体験による恐怖。そこから連鎖する不幸な出来事。そして大人になって分かること。女子ゆえのヘビーな展開だが、浦賀仁さんをはじめ、要所要所に登場する不器用な男の子たちにその重苦しさが救われた。そして心のバランスを崩すものの、回復していくその過程に胸を打たれる。明日への希望。そのラストに泣けた。

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島本理生
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